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逆転のトライアングルのKtoのレビュー・感想・評価

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)
4.9
【ひとこと説明】
ファッション業界、インスタグラマー、豪華客船に乗るような桁違いな金持ちの世界を痛烈に風刺したブラックコメディ

【感想】
オストルンド節が画面の隅々まで行き渡り、徹底的に意地悪で最高だった。

「フレンチアルプス」では、情けない父親を、「ザ・スクエア」では、情けない館長を描き、男性性特有のトラウマ的苦悩を痛烈に描き続けてるリューベン・オストルンド監督の最新作。過去作のエッセンスに加え、予算を増やしてスペクタクルを大幅に底上げしている感じがあって良い。
ミヒャエルハネケに多大なる影響を受けたと公言している監督が、「ハネケからの脱却」と語る。ヨーロッパの伝統的で社会風刺的な作風に、アメリカの伝統的なエンタメ性を加えて、自らの表現を高めたかったと語っているのも納得。

“客を見下すのが高級ブランドだ”のくだりで始まるのも痛烈。「H&M、バレンシアガ・・・」

会計の喧嘩のシーンも最高。クラシック音楽をBGMにした中でのきまづいシーンを描くのが上手すぎる。ジェンダーロールと会計の問題は根深い。実際に監督が妻とおなじような口論をしたことがあるらしい。「フレンチアルプス」の痴話喧嘩を思い出した。やはり、口論シーンが面白い(そして恐ろしいほどリアル)。

グルテンアレルギーなのにパスタで映え写真とったり、ずっとスマホいじってたり、彼氏に写真編集させたりと、”インフルエンサー”のさもしさが皮肉に描かれていて笑ってしまう。「色々と無料になるよ、この船もね。」「美女はいいな」は面白すぎる。悪意がある。

デッキで日光浴しているシーンでハエが飛んでくるのが天才的なタイミングだった。流石に監督もハエはコントロールできないだろうから、偶然だろうけど完璧だった。「君の名前で僕を読んで」のエンドロールのハエに並ぶ名演。

豪華客船の金持ちたちもキャラが濃くて良い。ロシアの”クソ商人”は真の資産家特有の超人的なゆとりがあって、腹が出てて、常に面白そうに笑ってて最高だった。武器商人の英国人も愛らしい。「民主主義を守っている」。「これって私たちの製品よね」で会場大ウケしてた。船酔いでジンジャーキャンディ鷲掴みにしたり、窓に吐瀉物が垂れてきたりと、数秒しかうつらないシーンでも徹底的にジョークを挟んでくるのが流石。ゲロシーンは「ザ・スクエア」のモンキーマンのシーンに相当する、恐怖シーン。監督も「描くなら徹底的な地獄を描きたい」と語っているらしいし…、意地悪すぎる(褒めてる)。吐きながら、船の揺れで体が滑りまくるところとかは本当に可哀想で同情する。

無人島に行ってからも面白い。実質、密室劇になっていて、通常時のヒエラルキーが”サバイバル能力”によって逆転していくところがサスペンス要素もあり楽しい。そして”革命”が起きたからといって、望んていたような平和が訪れるわけではない…というのも歴史が証明している。カールがアビゲイルと寝るのも、単に食事のためではないかもしれない…という複雑さと繊細さがすごく良かったし、主人公カップルの恋愛を軸として観ても複雑な経過ですごく生々しい映画だと思った。

※ヤヤ役のチャールビ・ディーンさんは2022年 病死されているらしい…。とても悲しい。
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