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逆転のトライアングルのDのレビュー・感想・評価

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)
4.9
2023年 14本目

「フレンチアルプスで起きたこと」「ザ・スクエア 思いやりの聖域」の2作を見て、めちゃくちゃにぶっ刺さり、最も好きな監督のひとりとなったリューベン・オストルンド監督。その最新作。元々、じぶんは映画の中でたまにある「きまずい会話劇」がたまらなく好きで、そんなシーンに出くわすと笑いが止まらなくなる悪趣味な人間なのだが、この監督の作家性はまさしくそこにある。最初から最後まで、きまずいシーン、見る人が見れば不快でしかないシーンの連続。社会風刺といえば聞こえはいいが、本当にそんな目的があるのかと思えるほどに次々とあらゆる方向から毒をぶち撒ける。自身にとってはもう「最高」の一言に尽きる。最新作も最高でした。本当にありがとうございました。

本当にあらゆる視点から嫌味が飛び交うので、一概に何をテーマにしているのかまとめづらい(だがそれがいい)のだが、「フレンチ~」では家族について、「ザ・スクエア」では芸術・美について、そして今作「逆転のトライアングル」では金・権力についてに焦点が置かれていたように思う。また、それぞれのシーンが物語として独立しており、映画全体を通しての素晴らしさを語ろうとすると各シーンの解説で完全なネタバレとなってしまう為、最序盤にのみ限定して感想を記していきたいと思う。

映画予告では、大勢の金持ちが乗った豪華客船が難破し、それまでのヒエラルキーが逆転するという、いかにも面白そうな引き込みで客寄せを行っている。しかし、それはただの一要素に過ぎない。先にも言った通り、それぞれのシーンが独立している為、日本でいうところの4コマ漫画の映像化に近しい作りになっている。この作品は最初からクライマックスなのだ。冒頭では、男性ファッションモデルのオーディションが行われている。大衆ブランドのH&Mの広告モデルは親近感を与えられるようニコニコしていて、ハイブランドのバレンシアガは「どうだ、カッコイイだろ?」と見下さんばかりの仏頂面だという対比。確かに言われてみればそうだ、、、と笑えるが、広告側からすればそんなつもりはないと怒るし、その広告を見る消費者もバカにされていて、どちらも敵に回している。一体何を伝えたいのか。きっと観客を不快にさせたいだけなのだろう(だがそれがいい)。そしてファッションショーでは、最近流行りの環境問題を全面に押し出した映像をバックにファッションモデル達が闊歩する。生活に必要なだけの衣服を必要なだけ生産することが何よりも環境にやさしいという事実には目を背け、環境にやさしい素材を使っています!といいながら大量生産は決してやめないファッション業界の欺瞞が痛烈に描き出されている。そしてその夜には、お互いにファッションモデルのカップルが、いかにも高そうなディナーを振る舞うのだが、こともあろうにそこで「男と女、どっちが奢るか問題」というこの世で最もくだらない話題のひとつであるトピックで大喧嘩になってしまう。環境問題について話せよ!じゃなけりゃせめてファッションの何たるかとかそういう話しろよ!日中何してたんだよ!とツッコまずにはいられない。挙句の果てにホールスタッフが伝票を置いたことに気づいていたか、いなかったかの生産性のかけらもない水掛け論に終着していて爆笑した。環境問題を訴えるファッションショーの夜に繰り広げられる会話とは思えない。いくらなんでも皮肉が効きすぎている。最高すぎる。

と、いったような爆笑か不快かの二極に分かれるシーンを延々と続けてくれるのがこの映画。個人的にいちばん好きだったのは資本主義とマルクス主義の名言引用バトル。船長が結果的に俺は金持っているくせにマルクス主義を掲げる偽善者クソマルキストだ!!!と荒れるところが、「そんな話をしている場合じゃない」状況の中繰り広げられていたのも相まって、最高中の最高でした。一生ついていくよ、リューベンオストルンド。
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