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逆転のトライアングルのmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

人間社会の権力関係・パワーゲーム・格差の構造を戯画化。全三幕構成になっていてとても演劇的。人間社会の醜悪さを写しとっている点でカンヌのパルム・ドールも納得。

第一幕ではモデルのカールとヤヤのカップルを題材に、観客と近くはないが遠すぎもしない”2人”という単位の関係性を描くところからまず始まる。

メンズモデルはウィメンズに比べると1/3しか稼げないらしく、ヤヤはインフルエンサーとしても人気。カールはヤヤのことを愛しているが、ヤヤは妊娠・引退も見据えて将来的にはセレブのトロフィーワイフになる選択肢しか見ておらず、カールのことをインスタの写真撮影係としてしか捉えていない...というようなカップルにおける力関係の構図がまず見て取れる。

第二幕は、ヤヤ達がインフルエンサーとして無料で招待された豪華客船が舞台。2人は高級レストランに行ける程度に裕福ではあるが、所詮は勘定をめぐって喧嘩する程度。一方で豪華客船の他の乗客たちはとんでもない金持ち/セレブばかりで、彼らはクルーズ船における権力構造のトップに君臨する。チップをもらうために接客クルー達は最善のサービスで彼らに尽くすが、下の階には調理スタッフ/清掃員等、乗客と接しないバックスタッフも数多くも存在。接客スタッフをまとめるリーダー的存在のポーラ(神取忍系)が命令する場面が象徴するように、クルーの間にも階層が存在することが分かる。ここでは社会の縮図として一幕よりも広い格差の構造が描かれ、縦の権力構造はパラサイト的。

第三幕ではその船が沈み、漂流して流れ着いた島が舞台。ここではサバイバル能力のある者が権力構造のトップにつくこととなり、力関係もまた転覆。清掃マネージャーのアビゲイルに対してカールはSEXと引き換えに食糧を求めるようになる。

さらにクライマックス、その島が実はリゾート島であることが発覚。関係の再反転を前にいかにして社会はこの戦いの構図を止めることができるかが問われる。

映画冒頭、オーディション前のカールがH&Mモデルに求められるスマイリーな表情と、バレンシアガ等ハイブランドに求められる人を見下すような表情とを交互にこなすシーンがあるが、それは権力構造が変わる中での変わり身の早さを象徴しているようにも思われる。カールは筋骨隆々のイケメンモデルで、多くの人にとっては自分とは異なり、関係のない世界に生きる人であったはずだが、こうした権力構造の変化に右往左往する存在と捉えれば、実は多くの観客の写し鏡にもなっているのだろう。
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