このレビューはネタバレを含みます
《イン デン ヴォルケーン!》
汚物大量で人におすすめは出来ないが初めから終わりまでめちゃくちゃ面白いしわかりやすい。
「人は生まれもった属性から逃れられない」
part1〜3までの3部構成だが、どのpartにおいても人間同士の支配階層が透けて見える内容であった。
とにかく主人公カールが終始滑稽。
オープニングの
"バレンシアガ" "H&M" "バレンシアガ" "H&M"から明確にそういったことが意識させられる(この繰り返しがギャグとしても面白い)。
高級ブランドは他を寄せつけない威圧感を出す一方、大衆ブランドは人種関係なくにっこり肩を組み合う。
今まで意識したことなかったが確かにユニクロの広告ってそんなイメージだ…。
オーディション部屋では男性モデルが1人ずつ審査員に品定め。部屋にぽつんといる犬がかわいい(この描写ですら皮肉たっぷり)
その後バシャバシャと容赦なくボディペインティングされる男性モデルたち。
男性モデルは女性モデルの三分の一ほどしか稼げないらしい。
このオープニングだけで男性の理想像とされている男性モデルの社会階級の低さ、つまり男性性の崩壊が表現されている。
part1ではそんなカールとその恋人ヤヤについて描かれる。
関係者としてヤヤのファッションショーを見にきたカールがであったが、彼よりも数ランク上であろう関係者により最前列の席から弾き出されてしまう。
こんな些細な場面でも力関係を見せつけてくる。
カメラが右斜めにパンしていくと後列の端っこで哀愁を漂わせながらカールが観覧していたのだ。本当に意地悪な監督…。
肝心のファッションショーは
"人類皆平等"というテーマを謳ったものだが
"バレンシアガ" "H&M"を見せられては何の説得力もない。
part1ではカールカップルの"奢る奢らない論争"中心に話が進む。
カールは"いつも俺が奢るのはフェアじゃない"と平等を主張するが、
"私といるおかげであなたも飯食えてるでしょ?"とヤヤにうまく包められてしまう。
どうやらヤヤは人を操るのが上手いらしい。
そんなヤヤも結局はセレブ妻になるのが夢と言っており、ここでも悲しいくらいに階級が意識される。
part2では舞台がヨット(豪華クルーズ)に移り、黄色いケースがヘリからクルーズへと空輸される。
中身は3缶ほどのヌテラ。
…ヌテラ?
ヌテラ3缶のためだけにヘリを出動させる富裕層の傲慢さ、我儘さが始まりから描かれる。
そんな富裕層に給仕するのは白人たち。
彼らのモチベーションは"高額チップ"
ここでも彼らが《マネー!マネー!》と踊り狂う様を常に一歩引いたところから映す監督の意地悪さが滲み出ている。
船の低層ではアジア人の清掃係が待機しており、さらにその下では黒人の整備士たちが働いている。
この客船一つとっても労働者としての階層がわかりやすく描かれている。
この章ではカールとヤヤ以上にロシアの《ウソ売り夫婦》やイギリスの《武器製造老夫婦》の存在感が強い。
地獄のキャプテンズ・ディナーでは常に揺れる画面とグラスが小刻みに揺れる音、そしてそれを全く気にしない乗務員たちのギャップが気持ち悪すぎる。
その不安定さを感じ取っているかのような赤ちゃんの泣き声も印象的。
ここではバビロン以上、もしかすると映画史上最大に汚物が放出される("誇張しすぎたマヂラブのM-1ネタ"を見させられてるようで笑いを堪えるのが大変だった)。
そんな地獄絵図の中、
船内アナウンスで"資本主義出身の共産主義者"と"共産主義圏出身の資本主義者"の思想を流され続ける地獄。
暗闇の中やつれきった乗客にライトを当てていくシーンはさながらバイオハザード。
そんな地獄の後、船が襲われ無人島へ。
part3では運良く生き残った者たちの無人島でのお話。
直近で『OLD』を見たせいか少し被る。
無人島という階級から切り離された社会において、一気に主人公になるのが清掃係のアビゲイル。
これまで全く意識させられなかったが確実にpart2までに登場していた彼女を持ってくる構成に脱帽。
邦題の通りここで階級というトライアングルが完全に逆転する。
ここでも、アビゲイルという強い権力者によって共産主義が形成されるという皮肉が表現される。
そんな中カールは自分の体を資本として権力者アビゲイルに近づいていく。
うーーーん、凄まじい…笑
ラストではヤヤとアビゲイルが無人島脱出のエレベーターを見つける。
絶対に無人島を出たくないアビゲイルに放つヤヤの「付き人として雇ってあげる」というセリフ。
眉間にたっぷりと皺を寄せたアビゲイルのカットは『パラサイト』でのソン・ガンホを想起させる。
そして島を疾走するカールのカットで幕を閉じる。
いくら懸命に走っても逃れられない社会構造を押し付けられた気分…。
一つ一つのセリフや画面構造、音楽が緻密に練られ過ぎていて監督の凄さをまざまざと感じさせられた。
ネタ作家になったらM-1優勝ネタ作れるのでは?と思うほどフリとオチが効いていたしギャグも全部面白かった。