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逆転のトライアングルのはまたにのレビュー・感想・評価

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)
4.8
バレンシアガのしかめっ面とH&Mの笑顔。

cynicism masquerading as optimism.(楽観主義を装ったシニシズム)との引用を地で行くような展開にニヤリ。全編を貫く軽快な底意地の悪さにまたニヤリ。撒き散らされる黄金のシャワーにまたまたニヤリ。ハマらなかった人以外、劇場にいる全員が同じような弛緩した顔をしてたのかと思うと、全員のマスク引っぺがして上から俯瞰で見たかった。

映画のプロットとして先出しされている船の難破とトイレ清掃員の君臨は意外と遅く、そこもうまく騙されたなという感じ。そして、そこに至るまでの過程もおもしろく、特にゲロまみれの船上パーティーは最高だった。吹き出される吐瀉物はエブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスでいうところの血しぶきのかわりのキラキラ紙吹雪みたいな趣き。飛び道具なので汚いとかって感じではない。お笑い要素。ちょっとホドロフスキーの自伝的近作を思い出しちゃった。

資本の関係がなくなったあとの無人島で、それでもなんとなく良好に落ち着く人間関係。そんなギスギスしてないのは、「お互い何もなくなれば意外とわかりあえるもんなんだぜ」という穏やかな希望というよりはそれを装ったシニシズムなのかな。なんか何重にも意味と肩透かしの構造が仕掛けられてる気がする。

関係ないけど、木々の間を傷も気にせず駆け抜ける感じに大江健三郎の『芽むしり仔撃ち』を思い出してあらためてRIPだぜ健三郎と思っちゃった。

こういう作品を観ちゃうとついシニカルに「こういうの、日本じゃ生まれないよね〜」とか思いがちなんだけど、こないだテレビ見てたらカード会社のCMで「ボクのことをわかったふうに言うな」ってあのちゃんが言ってて、その「若者の反抗も資本主義の側で用意させていただきま〜す!」な薄ら寒い感じに「本邦もやるじゃん」といたく感銘を受けた次第なのでした。

シニシズムってこーいうので合ってます?
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