まず、もの凄い物語に出会ってしまったと思った。
なにが凄いか。
観ている側への問いかけが、とてつもなく大きい。
この作品の舞台、ルーマニアのトランシルヴァニア地方で実際に起きた事を基に書かれた物語。
些細なことから次第に巨大な炎に飲まれるように、人種差別問題がその村を包み込む。
しかしこれはここ日本でも大いに起こり得る… もしくは既に存在していることかもしれない。
一部、謎に満ちた展開をしていく。
その、最も肝になる謎は二つ。
まずマティアスの息子ルディは森の中でなにを見てしまったのか。
そしてもう一つは物語のラストをどう受け取ればいいのか。
これはどちらも、「恐怖」というものを示唆しているのではないだろうか。
差別というものは、恐怖から生み出される。
よく知らない、「余所者」に対して、恐怖を抱くのだ。
マティアスにはマティアスの、シーラにはシーラの、ルディにはルディの、「恐怖」の対象がある。
外国人労働者を、そして彼らを擁護する村人を排除しようと、覆面で村を徘徊する者たちにとって、排除しようとする対象がまさに恐怖の源であるように。
… まるで「ジャンケン的状況」。
これは、マティアスのようなドイツなどに出稼ぎにいく村人はその土地では「ジプシー野郎」と呼ばれたりして差別される側になるのに、自分達の故郷に帰ってきたら異国から来ている者を差別する側になることにも通じる。
そう考えると恐ろしい。
これでは排他的感情は無くならない。
では、差別をなくすためには?
未知なものに対する恐怖からそれを排斥しようとぐるぐる巡る集団意識はどう変えれば?
この作品を観終わったあと、その答えがうっすら見えたような気がした。