木蘭

ヨーロッパ新世紀の木蘭のレビュー・感想・評価

ヨーロッパ新世紀(2022年製作の映画)
3.3
 トランシルヴァニアの寒村を欧州の縮図として、EUの問題をサスペンス調にあぶり出す群像劇。

 民族と宗教、言語が混在している地域を舞台にしているので、台詞の日本語字幕がルーマニア語は白、ハンガリー語は黄色、その他の欧州言語(ドイツ語、英語、フランス語)はピンクで表示され、スリランカ語は表示されない。
 これはルーマニア人が鑑賞している時と同じ感覚を再現し、各登場人物の民族的アイデンティティを理解するのに素晴らしいアイディアなのだが・・・慣れるまでしばらく混乱した。
(;´Д`A

 地元のパン工場に出稼ぎにやってきたスリランカ人を巡って、ルーマニア系、ハンガリー系、ドイツ系住民の混在する寒村で起きる移民排斥運動が軸になる。因みに(森の中でちらりと姿を見せるが)ロマは排斥済み。
 原題はルーマニア語でMRIを指すのだが、監督曰く『欧州 2.0』という題名案もあったらしく、邦題の方が適切な表題だったりする。 

 群像劇で描かれる様々な人生模様は、欧州人が抱えている様々な問題をあぶり出す。
 クライマックスは住民集会のシーンで、ここで各住民が口にする台詞が、今の欧州人が抱えている多様な意見・・・移民や外国人に対する偏見や差別、敵愾心、逆に寛容さや理性、更にはEUの正義と矛盾、それに対する怒りなどが、分かりやすくカリカチュアして表現される。

 住民集会のシーンを眺めていて思いだしたのが、スペイン内戦を舞台にしたケン・ローチ監督の『大地と自由』。
 奪取した村で農地解放をするか延々と村民会議をするシーンがあるのだが、そこでも議論の中で様々な政治的意見と問題点をあぶりだす。あぶり出した後に、主人公達は下した決定の結果として悲劇や挫折を味わうのだが、それでも戦い続けなければ成らない!という監督のメッセージを発しながら物語が閉じられる。

 この映画の問題点はそれが無いんだ・・・問題点をあぶり出すだけ。伏線も特に回収されないし。
 登場人物が問題と向き合って、それが陳腐なモノであっても何か決断を下し、結果として物語が閉じてこその寓話でしょ?問題をあぶり出すだけならドキュメンタリー映画で良いし、余りにも作家として無責任では?
 監督の前作『エリザのために』では、それはちゃんとしてたのに。

 ラストのヒロインとフランス男との関係とか、クマとか、謎シーンを作って誤魔化してないか?
 それともロマや外国人といった余所者は、ちゃんと息の根を止めておかないと大切なモノを盗まれるぞ!って事?違うだろ?

 2時間ちょいの上映時間中、ダレる事は無いし、17分ワンショットの住民集会のシーンも言われなきゃ気が付かないほど長さを感じさせないのは見事なんだけど・・・。

 まぁ、マッチョを気取った男どもは肝心な時に役立たず、女は強し・・・という事だけは伝わってきた。
木蘭

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