カポERROR

CLOSE/クロースのカポERRORのネタバレレビュー・内容・結末

CLOSE/クロース(2022年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

【多様性を語る前に】

今回は、勝手ながら個人的な思いを綴らせて欲しい。
本作鑑賞後の感想ではあるが、作品解説ではない上に少し重い話になるので、興味のない方はスルーして頂きたい。

私は、本作のような作品を目にする度に、何よりも先に必ず思うことがある。
その作品がフィクションであれ、ノンフィクションであれ、テーマが何であれ、作り手の意図がどうであれ…必ずだ。
本作で言えば、登場するレオとレミの関係が、例え同性であれ、異性であれ、恋人であれ、友人であれ…。
彼らの個性が、純真であれ、不浄であれ、繊細であれ、粗野であれ、性的マイノリティであれ…。
如何なる関係性や人物像であろうと、恐らく監督の意図したテーマ『多様性への理解』よりも前に、真っ先にこう思ってしまうのである。

 「人間が絶望や喪失感や苦痛を
  感じた時に選択してしまう
  ”自死”という選択肢を
  どうすればこの世界から
  なくせるのだろうか」

以前のレビューでも触れたが、私も過去に職場でのパワハラから鬱病を発症し、同様の行為に及んだ経験がある。
幸い命はつなぎ止めたが、家族や沢山の大切な人たちを苦しめてしまった。
職場復帰後、部下や後輩達に同じ経験を絶対にさせたくないという思いから、恩人の産業医とも相談し、自身の経験を記事として寄稿したり、悩みを抱える方々のコミュニティにも参加して自身の体験を語りもした。
そうしたやり取りの中で分かったことは、私も含め多くの人が”不安や悩みへの向き合い方や対処法を学んできていない”という事実である。
とりわけ、信仰と距離を置く若者が多い日本のような国では、そうした傾向が顕著かもしれない。
そんな日本では、テレビでの著名人の自死報道の際や、ネットで自〇に因んだワードを検索した際、無条件に『こころの健康相談統一ダイヤル』が表示・紹介される。
だが、対人関係で悩みや不安を抱えた狭窄的思考の人々が、積極的に連絡を取って赤の他人に自らの悩みを打ち明けられるとは限らない。
私の場合も、あの時、人と対話が出来る状態ではなかったし、ましてや、『心の健康相談ダイヤル』に一報するという選択肢は、脳内の何処にも転がってはいなかった。
では、そんな時にどうすれば良いのか。
私は、まずこの一冊の本を手に取り読んで欲しいと色々な人に伝えている。

 『道は開ける』(デール・カーネギー著)

この本は、私が10年前鬱に苛まれ倒れた際、恩人の産業医から最初に勧められた本である。
この本と出会えたからこそ、あれから10年間、私はこうして歩いてこられた。
正に今の私のバイブルだ。
そこには、人が悩みや不安に直面した時の対処法とその手順が、誰にでも分かるよう事例付きで簡潔に記されている。
実に76年前の初版刊行から今現在まで、世界中で1,000万部以上が発刊され、多くの人々の心の拠になっている書籍だ。
若者や子供達でも抵抗なく読めるよう、日本では漫画や児童書にもなっている。
悩みや不安を人に打ち明けられなくとも、この本をゆっくり1ページ1ページ、目を通すだけで良い。
そこに、自死以外の数多くの行動や思考の選択肢が記されているので、それに従い今出来ることを行えば良いのだ。
とは言え、この本がこの世から全ての痛みやストレスを消し去るわけではないし、世界中の自死者をゼロに出来るわけでもない。
こうした啓発本自体、どうしても受け入れられないという人もいるだろう。
だが、絶望の淵に追い詰められ「もう自死しかない」と信じ込んだ心に、「そんなことはない」「これをしてごらん」と選択肢を明示してくれることは確かだ。
どうか、未見の方は、騙されたと思って一度本書を手に取って眺めてみて欲しい。
これは決して案件でもステマでもない。
私はただ純粋に、”痛みから解放される方法は、決して自死だけではない”ということを一人でも多くの人に知って欲しいだけなのである。

✤✤✤

本作『CLOSE/クロース』。
登場する二人の少年…レオにもレミにも、同情する部分や共感する部分が多々ある。
私は事前情報なく鑑賞したこともあり、彼らへの感情移入によって、心を何回も何回も針で突き刺されたかのような痛みに苛まれた。
とりわけレオ。
同性への感情にフォーカスせずとも、彼の言動には、誰しも自分自身の過去に思い当たる行動があるのではなかろうか。

例えば…小学校の時に一番親しかった親友。
地元の中学に一緒に入学し、期せずして同じクラスになったものの、新しい友達が出来て、旧友とだんだん言葉を交わさなくなるあの感覚。
別に旧友を嫌いになった訳でも裏切ろうと思った訳でもない。
だが新しいコミュニティは、ことのほか新鮮で楽しい。
だからこそ、新しい友人たちに、「お前いつもあいつと一緒にいて付き合い悪いな」なんて言われたくない。
果たして、こう思う感性は狡猾なのか。
残酷なのか。
”悪”なのか。
いや、そう断じることも酷ではないか。
それこそ、そんな風に感じ、そんな行動をとる者もいるということ自体が多様性だと私は思う。
言動にショックを感じる繊細な者も当然いるだろう。
逆に何とも思わない者もいるはずだ。
それも多様性。
ただ、そうしたコミュニケーションに傷つき心が狭窄しようとも、決して自死を選択しないカルチャー。
それこそが、多様性を許容する世の中の基盤になると、私は信じてやまない。

長文にお付き合い頂いた各位に、心から御礼を申し上げる。
本作『CLOSE/クロース』は無垢で繊細な二人の少年の心が、喪失感や罪悪感に苛まれる様を、実に静かに丁寧に描いた作品である。
鑑賞に痛みを伴う作品なので、未見の方は覚悟の上ご覧頂きたい。
レミのような少年が、迷いなく生き続けられる世界になることを、心から祈っている。
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