このレビューはネタバレを含みます
先進国における奴隷制度だとしか。
この種類の作品を見るたびに思うけれど、入管職員のように人間味を殺さなきゃいけない職業は辛いな。やりたくない仕事の筆頭だわ。
難民受け入れについては様々な意見があるわけだけど、無制限に受け入れられるとは誰も思っていない。
初めのうちは心を鬼にして、自国の秩序を守るためにNOと言っていた職員も多いはず。
でも時が経ち慣れが生じた先には、難民申請をする人たちを本当に事務的に扱うようになってしまうケースの方が圧倒的に多数だと想像する。
環境に抗うのは難しい。
難民も職員も環境に支配されている。
弱い立場を利用する者が悪いし、諸悪の根源はやはり難民を生み出す母国だよ。
比べることに意味がないのは承知の上で。
母国に残され貧困に喘ぎなぎら暮らす家族と、悪事に手を染めながら先進国で「(生活レベル的に)家族よりはいくらかマシ」な生活をしているであろうトリやロキタ。
どちらが「より」辛いのだろうということは考えちゃったな。母との電話の時に特に。
脆弱な立場を利用しようとする人間は後を絶たず、人間に対する信用と自らの尊厳は地まで落とされる。
また、家族は国外に希望を見てロキタにすべてを託すのだけど、人間の汚さを日々浴び続けながら頑張ってもビザが発給される見込みは立たない。
ロキタは壁にぶつかって息詰まり、絶望に近いものを感じていたと思う。
何より辛いのは、母にさえお金を使い込んでると疑われてしまうことだよ。
母国の家族がロキタの困難を想像するのはどう考えたって難しい。
愛する家族との間に隙間風が吹き、心の置き場を無くしていたからこそ、トリの存在が拠り所になったんでしょう。ロキタが可哀想でしょうがない。
正直、僕らもこういう映画を見て、現実を知ることしかできないです。
この作品は「環境」を扱った映画でもあると思う。
意識の高い職場で働けばそれが標準になるし、客に挨拶しないお店でバイトをすればそれに染まり、無事、感じの悪い店の一員になれる。
でも嫌ならばその仕事を辞めれば済むんですよね。
トリやロキタや多くの同じ境遇の人々が抱えているものはそれとは違う。運命を決定づけてしまう環境ガチャです。
彼らを救うにはあまりにも無力すぎて、毎回辛い気持ちになる。
ドキュメンタリータッチながら、途中で物語性が入ってくるのは、多くの人に届かせるために必要なことなんだろうね。