よしまる

トリとロキタのよしまるのレビュー・感想・評価

トリとロキタ(2022年製作の映画)
3.6
ベルギーの映画監督、ダルデンヌ兄弟の作品を初鑑賞。噂に聞いていた、徹底したリアリズム、ドキュメンタリーさながらのハンディカメラ、有名俳優は出てこず、BGMは一切無し、という評判通りの本気作だった。

ヨーロッパ各国で顕在化する移民問題。これまでにもフランス、デンマーク、フィンランドなどの映画をレビューしてきたけれど、ベルギーにもやはり同じ難民流入の問題が存在する。そうした現況を映画というメディアを通じて世に問いかけたいという監督の想いは充分に伝わるし、なんなら鑑賞後しばらくズーンと胸にしこりが残って取れない。

アフリカからベルギーへとやってきた
高校生くらいの少女ロキと小学生くらいの少年トリの擬似姉弟。家族へ送金をしているとのことだから、子供だけが稼ぐために来ているのか、何かの都合ではぐれたのか、詳細は明かされない。

ただ、就労ビザ、と言っても違法ビザなのだろう、それを取得して職に就き、安定した日々を得るためにドラッグの密売もすれば時には屈辱的な性行為の強要まで、考えられないようなヒリヒリした日常を強いられている。

無邪気な笑顔が抜群に可愛くて、緊張感あふれるシーンの連続の中にあってふたりがじゃれ合う姿でふと我に返る。

まったく、子供が生きていくだけのことに、なぜこれほどまでに過酷な環境に置かれているのか?皆目見当もつかないまま、ただ行方を見守るしか出来ない辛さ。

子供たちに対する眼差しが優しければ優しいほどに、現実はこうだと、監督は希望の欠片さえも残さず残酷な事実を突きつけてくる。最後まで、余計なリリシズムも削ぎ落とし、泣いて済ませることすらさせてくれない。

そこまでやるか、そこまで見せないと我々観客は気づけないのか?