ABBAッキオ

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのABBAッキオのレビュー・感想・評価

4.1
 2022年カナダ、ギリシャ。クローネンバーグ監督の最新作。ビデオドローム以来のファンとしては期待通りの雰囲気で楽しんだ。90年代にすでにできていた脚本を映像化したそうだが、モチーフとしてはビデオドロームと重なる印象。ビデオドロームでは情報社会化により変化する心身を軸に、よく分からない勢力同士が争う構図だが、本作では人体の進化を肯定するか否定するかを巡って勢力が争っているようだ。ただ、誰がどの立場か、どうつながっているのかもなぞに包まれている。
 人間がなぜか痛みを感じなくなった時代、肉体解剖が娯楽ショーとして演じられ、主人公は新たな臓器を生みだす特殊体質。かつて執刀医だった女医は今や解剖ショーのパートナーとなっている。そこに、臓器登録機関、政府の秘密組織、人間がプラスチックを食べる臓器進化を肯定する地下組織、謎めいた会社エージェントの女二人組、などが入り組んでいく。
 ビデオドロームのような衝撃はないが、ストーリーの細部は敢えて曖昧にしながら、人間が生物ならざるものに変わっていく可能性と意味を問う、クローネンバーグらしい作品で、主人公が食事の際に見せる動作と顔の表情がさすがの演技だ。
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