湯呑

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーの湯呑のレビュー・感想・評価

4.7
まあ『クラッシュ』の焼き直しじゃないかと言われればそうなのだが、今これだけの役者を揃えてこれだけ好き勝手にできるのはクローネンバーグをおいて他にいまい。刃物で皮膚を切り裂く、という表面的な行為への執着が性的な快楽すら凌駕する狂った世界では、人間の精神などという曖昧なものは全く意味を持たない。臓物すらタトゥーという表面的な傷で粉飾され、人々が消費するアート作品へと祭り上げられる。だから、私たちの身体とは臓物を詰め込む空虚な容れ物に過ぎない。そこに意味を見出そうとするなら身体を解剖し、はらわたをさらけ出し、その奥に何が隠されているかを探らねばならないだろう。もちろん、それをよしとしない勢力は電気ドリルで頭をぶち抜いてでも人間の内面への探求を阻害しようとする。本作は人間の皮膚という境界をめぐる異様なスパイ・スリラーなのである。
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