じゅ

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

Serendipity Point Films の艶々てらてらした蝶こわ。
オタクの早口語り的なのをリップノイズもりもりにしたやつとか、大概の人間がやったら喋ってる途中でブン殴られるレベルだと思うけど、クリステン・スチュワートがやっても普通に見てられるのずるいな。


痛覚だの感染症だのを克服した人類。プラスチックを食す少年ブレッケンを母親のジェナが殺した。ソール・テンサーは加速進化症候群によりその身に未知の新臓器を創り出し、カプリースが摘出するというパフォーマンスアートでその名を轟かせていた。
ソールに舞い込んだパフォーマンスの提案。ブレッケンの父ラングが、息子の遺体の解剖をパフォーマンスにしないかというものだった。彼らは大多数の人間と同じような食事ができず、プラスチックを食して生きる。プラスチックを食せるよう手術した。そんなラングの子のブレッケンは、生まれながらにしてプラスチックを消化できる器官を備えていた。ラング達は、そんなブレッケンの存在を警察らに握り潰されないよう世に知らしめたかった。
暗躍するライフフォーム・ウェアのエンジニアによるラングらの殺害や、臓器登録所のティムリンによるブレッケンの内蔵へのタトゥーの刻印などを経て、ソールはプラスチックを食す者たちへの歩み寄りを進めていく。ある朝、いつも通り喉を通らない朝食に代えてラングらが食べていたバーを手に取った。大多数の人間が口にすれば死ぬそれを齧ると、ソールの顔に笑みが浮かび涙が溢れ出た。

っていう。案の定シアターが明転した直後に俺は「?」ってなってた。


何をどう感じ取ればいいだろう。何を足掛かりに考えてけばいいだろう。
とりあえずは題名のことなのかな。『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』なんだから何故・何が犯罪なのかってとこなのかな。殺人が旧来からの犯罪みたいに言われてたけど、対してあの時代に新たに誕生した犯罪の概念とは、っていう。

臓器(別の者が言うには腫瘍)が増えるとか、変な進化を遂げて人間じゃなくなることが危惧されてたか。その、人間じゃなくなることを促進するような行為が犯罪だって言ってたわけか。たぶん。その辺については絶対どっかの会話で説明されてたと思うけど、もう覚えてらんねえ。

でも、だとして、人間じゃなくなるってどういうことなんだろ。どこまで変わっても人間のままで、どこまで変わったら人間じゃなくなるんだろう。
まあそうきっぱり境界が引かれてるような話じゃなくて、人間とそうじゃない生物への変異(進化?)はグラデーションになってるんだろう。でも行くとこまで行ったらいつの間にか猿と人みたくきっぱり境界線を引けるようになるだろうからその点はなんか怖いな。
プラスチックを食う(プラスチックしか食えない)のは人間じゃないことになるんだろうか。姿形は一緒だし、頭貫かれりゃ死ぬし、生殖できるし、腹掻っ捌いた中身も消化器官以外はまあたぶん一緒だよな。でも、食物連鎖からは完全に外れてるな。

人間か否かより、ニュー・ヴァイス・ユニットとやらが懸念してたのは、妙な進化を仮に続けてった末に生き残れるかってところな気がしたかも。
だとすればまあ、各々妙な進化を遂げてった末に、自然淘汰か何かの圧で然るべき人たちが基本的には生き残るだろう。けど、そうじゃない人たちにも生き残る執念だの信念だの知恵があるだろうから厄介だよな。大袈裟に考えれば争いが避けられない方に進んでいくのかも。
だとしたら、妙な進化を野放しにしとくのはおっかないな。そういうのを促進しうる行為は犯罪として取り締まりたくなっちゃう。


でも、進化を妨げるってめちゃめちゃ非自然的だよな。それじゃあ、独自の進化を遂げる人たちとそれを止めたい人たちって、生物だけど人間じゃない側と人間だけど生物じゃない側ってかんじする。
そもそも、止められてないよな。ブレッケンはこの世に生まれてしまったし、ソールは加速進化症候群とやらの末にプラスチック食いマンになってしまった。ソールの進化が自然的だったかっていうと、カプリースの手で臓器を取り出してまた新しいのを創り出すっていう作為的な操作が入ってて、どうかなってかんじだけど。でも、ソールとしてはそうやって新しく体内に生成される臓器が不健全だって思って切り出してたんだよな。つまりソールとしてもそんな進化は望んでいなかったはず。

だから、望むにせよ望まぬにせよ、我々は多かれ少なかれ進化を重ねて変わってくよねってことなんだと思う。犯罪にするとか臓器の登録を義務付けるとか、そういう人間的なやり方で人間を取り締まったところで止められないのだと。


それはそうと、NVUはなんでティムリンを仕向けてブレッケンの臓器にタトゥーさせたんだろう。腹コブ兄貴は何て言ってたっけ。
我々は生物の神秘に触れることができるぞ、みたいな示威なんだろうか。まあ結果的に思い上がりだったかも知れんが。

あと、ドクターとラングの頭に風穴空けて殺したのがなんでライフフォーム・ウェアの2人組なんだろう。
殺された2人とも、NVUなんかが懸念してたような進化を推進したいような人たちだったと思う。だから殺されたのかなと思ってる。でも、なんで手を下したのがあの2人だったんだろう。
まあ、少なくともNVUが手を回してブレッケンの臓器にタトゥー入れてたことは知ってたみたいだったから、彼女らもNVUとの繋がりはあったんだろうな。とすれば、同じくNVUの手先だったソールとか、彼の望まぬ進化の産物たる臓器を切り落とす役割を担うカプリースが殺されなかったのは解る気がする。ちょっとよくわかんないなって思うのは、何故ライフフォーム・ウェアの2人組がNVU側に付いたか。
彼女らってどんな人たちだったっけか。大昔に製造が終了した解剖装置のサークに目を輝かせて、カプリースは「悪戯っぽい」と評してた覚えはある。現存するサークの中にはクソみてえな改造が為されてるものもある的なことも言ってたっけか。対してソールとカプリースが持ってるサークは繊細で良い、みたいな。ソール達のサークは、要は腹の中のものをばらして取り出すっていう本来の用途のままなんだよな。
クソみたい改造と書いたのは、もしかしたらいわば無秩序な進化みたいなことで、人間の奇妙な進化のことともまあ繋がるのかも知れんが。そして彼女らがそういうのを嫌うってんならその思想はNVUに近いと思っても良いのかも知れんが。でも人間の進化に対する危惧は生物としての危うさな気がする一方、サークなんかの機械の進化(改造?)が嫌なのは想像するに機能美とか無駄のなさが失われることで、ちょっと毛色が違う感じもする。AppleがiPhone16に箒とか付けたらたぶんみんな白い眼で見るけど、でも別に滅びに決定的に繋がるわけでもない的な。それとも彼女ら、今の人間の機能美みたいなとこ大好きなんだろうか。

どうにせよ、あんなベッドとか椅子とか部屋に置いたら他の家具何も置けなくなると思います(見た目的に)!
じゅ

じゅ