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クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのhasseのレビュー・感想・評価

4.1
演出4
演技5
脚本3
撮影4
音楽4
技術5
好み4
インスピレーション4

○「古風なセックスは苦手でね」(ソール)

『ヴィデオドローム』や『クラッシュ』に連なるクローネンバーグの正統なる系譜といった作品。御年80歳のクローネンバーグは丸くなるどころか発想を益々先鋭化させている気がする。

内臓摘出パフォーマンスのシーンは、以前行った緊縛ショーを思い出した。畳の一室でプロの緊縛師がプロの女の子を縄で縛り上げるのを観客が取り巻いて見る、撮影する。ショーは縛られることで発露する美を追求するアート、みたいなコンセプトでやっており、観客もそれに賛同しつつ、好奇心と下心を燃えあがらせてまじまじと女の子を見つめていた。

アートとは人間の私的で、隠匿されるべきほの暗い欲望を公衆の場に引きずり出すためのエクスキューズになり得る。アートという隠れ蓑をまとうことで、変態性欲やフェティシズムは公衆の面前で表現され、共有され、議論の対象となる。

彼らのアートは彼らの日常の延長とも言える。クリスティン・ステュワートが指摘するように、手術はセックスである。ヴィゴ・モーテンセンとレア・セドゥのセックスは一般的なかたちを完全に逸脱している。そこではセックスにおける男女の従来の役割は破壊されている。
二人は互いの肌に傷をつけ、切り開き、押し入っていく。肌にできる裂傷の痛々しさとは裏腹に恍惚の表情を浮かべる二人の演技が素晴らしい。セックスが終わると二人は互いを包み込むように抱き合って眠る。性器を結合させ男性の射精で終わる(ヴィゴ曰く)「古風な」セックスの影はそこにはない。そして、内臓を生産する=男性が産む身体を持つこと。ここにも男女の従来の役割の破壊がみられる。

世間がセクシュアリティやジェンダーの多様性を議論する中、独りセックス(性行為)の多様性に切り込んで新たなイメージを提示してみせるクローネンバーグはやっぱり面白い。正直、政府との対立とか設定の説明台詞とか眠たいところも多々あったけれど、こんなショットを見せられちゃかなわんわ、という体験ができるだけで映画を観る喜びは達成されたようなものだ。ヴィゴ・モーテンセンが、レア・セドゥにリモコンで腹を裂かれ、内臓を取り出されて恍惚のうめき声をあげるという変態映像には脱帽。

カンヌでも、世論でもこの映画は賛否両論に割れているようだが、この映画に限って言えば、そうでないといかんだろう。このキテレツで変態な、しかし妙に生真面目な映画が絶賛の嵐を受けるようでは人類の将来が思いやられるから…。
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