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クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのsymaxのレビュー・感想・評価

3.7
"手術は新たなセックスよ…"

そう遠くない未来…人類は環境に適応し、免疫を獲得して感染のリスクもなく、"痛み"も感じない身体に…更にはプラスチックをも食べる"新種"が現れる事に…それはもはや人類と言えるのか…

"加速進化症候群"であるソールは、体内で新たなる臓器を作り出し、それを摘出するというパフォーマンスをパートナーであるカプリースと共に行い人気を博していた…

政府はもはや人間とは呼べない進化を遂げようとする人類を危惧し、"臓器登録所"を設立し、特にソールの存在に注目していた…

新たなパフォーマンスが乱立する中、ショーを模索するソールとカプリースの前に一人の男が現れる…その男ラングはある遺体をショーで解剖するよう提案する…その遺体は生前プラスチックを食べていたと言うのだ…

クローネンバーグ監督は、その最新作で"ボディホラー"の世界に帰ってきた…否、新たなる進化をその最新作で魅せたと言っても良いのでは?

テクノロジーが織りなす人体の進化が生み出すその世界はまさにディストピア…

ヴィゴ・モーテンセンの終始"オエオエ"嘔吐くようなセリフ回しに息苦しさを感じ、暗い未来の行き先にゲンナリする始末。

本作の題名を初めて聞いた際、既視感を感じたのですが…そうクローネンバーグ監督がプロとして商業デビューする直前に作製した実験的中編"クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立"と同じ題名なのだ…一度鑑賞していますが、これが実験映画だけに、難解難解…内容も本作と似ているようで似ていないようで…本作との関連性はないみたいですが、クローネンバーグ監督ももうなんだかんだで80歳です…何だか監督の集大成に向けた新作なのでは?と一抹の不安を感じたのです…

そう思うと、ボディホラーへの回帰や解剖マシーンのデザインが"裸のランチ"のバグライターの触手のようであったり、"戦慄の絆"での手術道具のようであったり、“イグジステンス"でのボーンガンのようなヘンテコデザインの椅子だったり…人類の進化は、"スキャナーズ"や"ビデオドローム"と少しずつ過去作とリンクするテーマが見え隠れしているようで…

そこに監督の原点の一つである最初期の中編と同じ題名なので…大丈夫か?と不安になったのです…

とは言え、監督の80をとなっても衰えるどころか研ぎ澄まされたセンスには流石としか言えません。

ラストのヴィゴの表情を未来への絶望と捉えるか新たなる進化への希望と捉えるかで、作品全体のイメージは変わってくるとは思いますが、このセンスが好きでたまりません…息子であるブランドンはまだこの域には達していないのかなぁ…
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