のほほんさん

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーののほほんさんのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

クローネンバーグ作品の新作を劇場で観るのは初めてではないが、「マップ·トゥ·ザ·スターズ」は比較的大人しいというか、控えめな感じだった。


クローネンバーグ「らしい」作品は、過去の名作として紹介されたのを勉強してから観るという感じで、だからこそ諸先輩方は例えば「ザ·フライ」「ラビッド」「イグジステンズ」とかを今日の私と似たような気分で観たんだろうなあ、と。
「らしい」で言うなら、何なら息子の作品の方を先に劇場体験したくらいだ。

期待と不安と歓びと恐れが滲み出てくるような。
もうタイトルロールや、少年が母親に「何も食べないで」と言われる理由がわかる導入部からして圧巻。
本当に、自分が何かなるのかと思ってしまう緊迫感。


人間が進化し、痛みが無くなった世界。
体内に新たな内臓を作り出す進化をしているヴィゴは、レアにそれを摘出されるショーを行っている。
まさに「肉薄」か。
目と口を縫い合わせ、代わりに全身に耳を着けた男の舞踏。これはこれで凄まじいインパクトではあったが、表に留まる点、クローネンバーグの関心外という感じ。
ヴィゴにやらせるアートとは好対照。


肉体に傷つける行為はそこかしこで行われているが、そこから中に入る行為は未来のセックス。
ショーの間のヴィゴの恍惚とした表情しかり、ショーに露骨に興奮するクリステン·スチュワートしかり。
しかもそれは性器を介さず刃物がその代わり。性的嗜好とは関係なく、性を超越したセックスが成り立つ。レアは顔を切り刻まれた女性に影響を受け、額にその証を植え付けられる。


ヴィゴもまた進化した人間であるが、冒頭で登場したゴミ箱食べ食べ少年はさらなる進化の形を見せる。
ヴィゴは咀嚼や嚥下を助けるらしい奇妙な椅子(「イグジステンズ」っぽさがここにも)で食事を摂るのだが、食べ物そのものはあくまでも人間のもの。
しかし少年は、生まれながらにしてプラスチックを消化できる器官を体内に備えていた。


父が合成麻薬チョコを食べることで進化を図る集団のリーダーであることは間違いないが、それは後天的なもの。
劇中の言葉を借りるなら「親が手術で小指を切り落としたら、小指のない子が生まれた」状態。


実は秘密捜査官であり、むしろその内臓をどうこうすることを取り締まる側にいるヴィゴは、ミイラ取りがミイラになり更なる進化の道へ。ぶっ飛びチョコを食べてまた新たな扉を開く…。


クローネンバーグという人はよほど内臓に興味があるのだろうと思うが、長年同じテーマを持ちつつも自ずから新たな可能性を指し示しているのがまた凄い。
なんつっても人間ではなく内臓が進化するのだから。人間が内臓の付属物のようだ。
本当にクローネンバーグを「体験」できた作品であり、それを過去作でなく最新作として観れたのがとても嬉しい。