ペイン

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのペインのレビュー・感想・評価

4.5
宮崎駿『君たちはどう生きるか』を初め、正直今年は老巨匠たちの新作にかなり“撃沈”してきたのだが、本作は実に“幸福な老後”映画に仕上がっていた。

御歳80のクローネンバーグ爺ちゃんは、実に可愛くポップに歳を重ねている(´・∀・)

ロバート・パティンソンとの近作(※『マップ・トゥ・ザ・スターズ』『コズモポリス』等)の感じの路線からはまた原点回帰しつつ、しかし“今”のクローネンバークにしか撮れないような集大成感のようなものも漂う一編に。

確かに、あの『裸のランチ』や『クラッシュ』の時のような奮い立つようなフェティッシュ感、ギラギラ感は後退しているのだが、一方どこか間の抜けたユーモアセンスは進化しているようにも感じた。

言うなれば、普通のギャグよりも明らかに“下手”で、少し寒くて場が白けるけれど、なんだか憎めない味のある“親父ギャグ”のような、そんな愛すべき珍品とも言える。

親父ギャグは、感情をコントロールする器官である前頭葉が、加齢とともに機能が衰え始めるため、頭に浮かんで「みんなに言いたい」と思ったギャグを我慢できずに言ってしまうとされている。そのギャグを言うことで話の流れが乱れたり、相手の気持ちを害したり、面白くなかったりするかもしれないという可能性よりも自分の「言いたい」の気持ちが優先されてしまう。

まさに本作はそんなクローネンバーグの「言いたい」「やりたい」が先走ったような作品、故に“ん?“という場面や退屈と感じてしまう部分はこれまで以上にあるとも言える(※私も確かに中盤は少しだけウトウトもした)。

しかし、私はこの何かの夢を見させられているような不思議な”雰囲気“に魅せられてしまったとも言える。本作を観たいけれど怖そうと警戒している方に言えるのは、“ボディーホラー”とは言われているものの、正直初期クローネンバーグ作のような奇抜さや、“エグみ”はあまりなく、スローシネマというか、少しエッチで摩訶不思議な“アート展”を観に行くようなモチベーションで全然良いと思う。

主演のヴィゴ・モーテンセンがクローネンバーグと相性抜群なのは勿論だけれど、脇を添える女優2人が何より最近の作品では一際輝いていたようにも思う(※レア・セドゥのヌードを見たのは「アデル、ブルーは熱い色」『フレンチ・ディスパッチ』に続いて3回目?)。特にクリステン・スチュワートは近年、個性的だったり、尖った“強さ”を全面に打ち出した女性を意図的に沢山演じてきたようにも思えるが、本作でのナチュラルな佇まいが実にキュートで素敵だった😊

また撮影が、『戦慄の絆』からの常連、ピーター・サシツキーからダグラス・コッチに代った。
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