さゆ

クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのさゆのレビュー・感想・評価

4.1
人類の進化の可能性を秘めた主人公が、
(観客である私たちとともに)価値観を揺るがされながら生き方を選び取るお話。

私たちは今、たくさんの怖い感覚を忘れてしまっている。
例えば小さなサプリで食事を済ませることも、飛行機で空を飛ぶことも、生きた臓器を医者に触らせることも、
千年前に生まれていたら怖くてできなかったはずだ。

もしも将来自分が痛覚を失ってしまったら。
人間は痛みから逃げようとする本能が行動原理になっているはずなので、痛みがなければ生きる動機を別に探さなくてはいけなくなりそうだと思う。
確かに痛みへの懐古が、自分を痛めつける癖を作ってしまうかもしれない。性的な緊張と弛緩の繰り返しの価値も上がりそうだ。
楽しいから生きる。楽しくないと生きられない。

ネイティブアメリカンに「7代先を考えよ」という言葉があるらしい。一方で私は美味しい肉食べて車乗って選挙に行かず、次の世代のことも全く考えない生活をしている。
彼らと私の違いは「下手したら死ぬかもしれない」という恐れと、今ある命を尊ぶ感覚の有無だ。

この作品の登場人物が
手術ばかりを求めて古典的なセックスに興味を持たないのは、
[精神的充実>>>種の保存]になった成れの果てなのかなと勝手に想像した。

でもこれはまだ感覚の価値を知っている世代の話で、この作品から更に数十年後の人類のことを考えると何を思い生きていくのか想像もつかなかった。
プラスチック人間たちは果たして繁栄するんだろうか。

主題から外れた感想になってしまったかもしれない。

(メモ)
○社会の全体像が見えないため、奥行きがあって良かった。
さゆ

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