じゅ

聖地には蜘蛛が巣を張るのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ポスターの彼女、あんなパワー系だったんか。そんであのレロレロしてる描写カットされてんじゃねえか!
てか、男の茎の部分ぼかし無しで近くからってのは初めて見た。亀さんとかお稲荷さんが映んなきゃいいんかな。


イラン、聖地マシュハド。(9.11の貿易センタービルのテロがTVでしれっと流れてたからたぶん2001年くらい。)娼婦が殺害・遺棄される事件が発生。犯人の男は新聞社の記者に犯行を伝え、さらに同様の手口で殺害を重ねた。女性記者のラヒミがテヘランから駆けつけ、地元警察とは別に取材を開始した。
建築業者のサイードは、妻子が実家に帰る木曜の夜にバイクを駆って町に出ていた。聖堂のすぐそばの公園で客に拾われようとしている娼婦の1人に目をつけ、バイクを停める。家に連れ帰ると、ヒジャブで首を締め上げて殺した。遺体はバイクで運んで捨てて、その後いつもの記者に連絡をした。犠牲者は16人に及び、"蜘蛛殺し(スパイダー・キラー)"の名で娘を持つ親に恐れられ、聖地の腐敗を憂う者に英雄視された。
警察による捜査は進展せず、有力な何者かが庇っていると見たラヒミは、決死の囮作戦に出る。娼婦の装いで公園に立つと、ついに狙っていた男に拾われた。男の家で殺されかけたが、男が前の殺人で怪我をしていたため、隙をついて逃げることができた。ラヒミは連続殺人鬼の居場所を警察に伝え、サイードは逮捕された。
裁判所には多くの"蜘蛛殺し"支持者が駆けつけ、連日無罪と釈放が叫ばれた。政治的な問題にも発展した裁判は、被告人の12回の死刑、4遺族への賠償金の支払い、禁錮14年、100回の鞭打ちの判決で幕を閉じた。裁判を終えたサイードの独房に親友のハジと検事の男が訪れた。実は検事もサイードの支持者であり、先の裁判は茶番であったことを語った。ハジが言うには、おそらく判事も本気ではないため死刑は執行されずそのまま出られるとのことだった。執行日、お遊びの鞭打ち100回を終えたサイードは死刑場に引き渡された。そのまま通り抜けようとしたサイードに手錠がかけられ、台に乗せられた。訳もわからぬままサイードは絞首刑に処され、事件は幕を閉じた。

帰路についたラヒミが、撮影した取材映像をバスで見返す。サイードの息子アリが父の犯行について聞いたことを嬉々として語る。妹に協力してもらい、父がどのように人を殺したか、聞いた通りの内容で簡単に実演までしてみせた。
アリは10~20人から父の跡を継げと言われているとのこと。警察が娼婦をどうにかしない限り第二のサイードが現れるとアリは語る。


なんか、イスラムの闇を描く系の物語ではもはや必須の要素な気がしてる女性蔑視の描写もさることながら、一人の普通だった男の信心が戦争の経験とか喝采を浴びたことでぐちゃぐちゃになってく描写が一番印象に残ってる。まあそれが主題の1つだっただろうし、印象に残ってたぶん正解か。


女性蔑視については、なんというか「問答無用」の4文字がよく似合う。原因・理由がどうあれ、結果がダメならダメ。子を養うために他に手段がないからという理由でも、結果として娼婦になったんならダメ。編集長に体の関係を求められたのを拒絶して上に報告したのが原因でも、結果として男に目をつけられて解雇されたんならダメ。

ホテルの宿泊を拒否されそうになるの、理由下手すぎてくそおもろかったな。予約したけどシステムエラーで部屋がいっぱい、でもジャーナリストと名乗った瞬間システムエラーが直って部屋に空きができる。
まああの下っ端のフロントさんも、意味わかんねえけど従わなきゃいけないから従ってたんだろうな。予約した宿泊客が未婚で単身の女性だからシステムエラーかなんかで実は満室だったって言っとけと先輩っぽい人に言われて、そう伝えたらその客は記者のIDを出してきて、先輩っぽい人に伝えたら今度はシステムエラー直ったから泊まれると言っとけって言われるの、そんな支離滅裂な役回りを押し付けられるの嫌すぎるてw

ラヒミさんがバイクでしつこく付け回されたの、あんなん日本でもありそう。向こうの野郎がバイク乗ってくるかは別として。


サイードのブッ壊れ方はなんか妙に好きなんだよな。最初は哀れだと思った。最終的にはこの人もうだめだなって思った。

1981年から1988年に従軍してたって話だったか。イラン・イラク戦争のことだと思う。その戦争を生き延びたことについてのサイードの見解を聞く限りは、なんとも哀れな男だったのよな。
仲間が死んだり行方不明になったり障害を負ったりする一方、自分は無傷で帰ってきたのだと。自分は殉教するに値しないと神に言われているような気がした、みたいなことをハジに語ってて、その時のサイードはまあ殺人というでかい問題を一旦置いておけば間違いなく信徒だった。
でも、最終的にはどうだったか。心神喪失の線で行こうとして弁護士と話し合ってたのを台無しにして、「支持者に狂人を支持していると思わせられない」みたいなこと言ってたっけか。導師にでもなったつもりだろうか。まあそこはいいとして。でも、裁判とかを通してだんだん雄弁になってくかんじは、このサイードが確かにブッ壊れていっている感覚を俺には与えた。そのトドメはたぶん、死刑は執行されないで誰にも知られずしれっと出られるとハジに言われたところだろうな。鞭打ち100回を壁叩き遊びでけらけら笑って済ませたのは何だ。神に忠実に赦しを乞うてたおまえはどこに消えた。死刑が本当に執り行われると察して暴れ出したのは何だ。それは自分なりの正義に従って聖地の腐敗を正そうとした末に訪れた、おまえが望んだ殉教じゃないんか。

"蜘蛛殺し"の新事件が掲載された新聞を探す描写に薄々感じてたけど、サイードはもう神のために云々ってかんじの人間じゃなく、自分のために注目とか賞賛をかき集めたい人間に成り果てちまったんだよな。そういうところ、この人もうだめだなって感じた。
そういえば、単に殺しが快感になった可能性もあるかも。実行日には殺さないと寝れないみたいなことどっかの場面で言ってなかったっけか。


息子のアリに父親の跡を継げと言っていたという10~20人とやら、終わってるなまじで。判決が出る前か後か、執行される前か後か知らないけど、少なくともサイードは逮捕されてんだよな。逮捕されるようなことを子供にやらそうとするなよ。おまえらがやれよ。いややるなよ。
にしても、父親が連続殺人犯と知った時は何のためにどんな人たちを殺していたか当然全く知らなかった少年が、すぐさま父親とかその支持者の正義感に染まっちまったな。その地に染みついた正義感なんだろうな。その正義感というか心持ちについて俺が正しいとか間違ってるとか言えた立場じゃないけど、少なくともその地に染み付いて定着したものはそうそう塗り替えられんだろうな。せめて正義感とか心持ちは変わらずとも、殺して遺族を悲しみのどん底にブチ落とすようなことは実行に移さなくていいようになってくれればいいが。
じゅ

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