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聖地には蜘蛛が巣を張るのAzminのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
3.7
イランの聖地マシュハドで起こった売春婦連続殺人事件。
サスペンスなのに犯人が初めから分かっているところ、どんなアプローチの仕方をするのか。

監督がアリ・アッバシなので「ボーダー」みたいなぶっ飛んだ描写や展開が待ってるのかと思いきや、こちらは比較的オーソドックスな作りに感じたが、決してそうではなかった。

犯人のサイードは仕事にも恵まれ、優しい妻と可愛い子供が2人いる普通の社会人。
そんな彼がどのように売春婦を狙い、殺人を犯すのか。
これがあまりに淡々としていて返って虚しくなる。

それでも殺人シーンはなかなかリアル。首を絞められる時の被害者の顔がアップになるのはかなりキツイ。
サイードは売春婦は腐った悪の存在、街を浄化する為に殺しをしていると信じている。
まさにシリアル・キラー。

なぜここまで次々と売春婦ばかりを手に掛けるのか。
サイードは軍人の頃、名誉の戦死を遂げられなかったことを恥じている。
そして、どこかで自分が何かの役に立ちたい、何かを成し遂げたいと思っている。
その気持ちがおかしな方向へ行ってしまったのか。

サイードを追う女性ジャーナリストのラヒミ。
この女優さんがまたとっても美しくて魅力的だった。
ラヒミもまた、以前勤めていた職場で上司からのセクハラに苦しめられ、理不尽な辞め方をしている。
警察にサイードの事情を聞きに行くも、そこでまた同じような嫌がらせを受けてしまう。

後半、遂に捕まってしまったサイード。
被害者が16人も出ているので当然死刑の判決が下るも、中には彼の行いを街の浄化をしたヒーローのように扱う者も現れ、サイードの家族までが得意げな気分になっているのが信じられない。

自分は逃げられると信じていたサイード、結局死刑執行されてしまい被害者の恐怖を味わうことになる。当然の結末。
でも最も恐ろしいのはラスト。
父の取った行動を誇らしいと思っている子供たち。
息子は後継人になるかも…?

これは腐敗しているイスラムを描いた作品。
そしてフェミサイドと真剣に向き合わざるを得ない気持ちにさせられる。
アリ・アッバシ恐ろしや。
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