木蘭

聖地には蜘蛛が巣を張るの木蘭のレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.5
 イラン第二の都市で実際に起きた娼婦連続殺人事件を描いた作品で、ヒロインにも実在のモデルがいる。

 有名な事件であり、犯人捜しのミステリーでは無く、犯人と事件を追う女性ジャーナリストの2人の視点を軸に、イラン社会の抱える暗部と、日常的に女性が抑圧されている現状を描き出す。
 イラン映画では絶対に描けないヌードや麻薬、売春といった現実を描いているのだが、よく日本の映倫を通ったな...というシーンもある。

 気をつけるべきは、これはイランを批判しているというよりは(勿論、批判はしているのだが)、世界中で多かれ少なかれ繰り返されている女性への抑圧や、普段感じている恐怖や不安、社会の弱者への責任転換に対する怒りが主題であると言う事。そこは慎重に描かれている。

 犯人は娼婦の中でも弱そうな相手から殺して、自信を付けると大柄な相手を狙う姑息で卑劣な男で、作中では直接描かれないが、実際は被害者を嫌悪しながらも犯行時に性行をしており、典型的なフェミサイドである事が分かる。
 と、同時に彼は普通の市民でも在り、イランイラク戦争の影も色濃く感じる。家族への愛や、殺人を犯す事に恐怖や嫌悪、迷いも感じている姿も丁寧に描き出される。

 娼婦達も、安っぽい厚化粧と荒れた肌、身体は痣だらけで、麻薬で気を紛らわし、心も体もボロボロになりながら、家族や生活の為に客を取っている姿を映し出され、観ていて目を背けたくなる。
 客が彼女たちをホテルとかではなく、(これだけ近所の目があるのに)自宅に連れて行くのには驚いた。
 夫婦の性愛など、イラン映画では描けない生々しさが、ここにはある。それ故に、我々とも地続きの話なのだと感じられると思うのだが、どうだろう?
 
 監督や主要キャストは欧州で活躍するイラン人で構成され、撮影も現地で申請を出したが通るハズも無く、トルコでのロケも邪魔され、結局、ヨルダンで行ったとの事。
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