はぐれ

聖地には蜘蛛が巣を張るのはぐれのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
3.7
イランで起きた娼婦連続殺人事件から着想を得て完成した本作。犯人探しと言うよりはイスラム社会のいびつな女性差別の現状を切々と訴えかけてくる演出。それが遠い中東の話ではなく、極東の人間が見てもどこか既視感を覚えるくらい身近な社会問題として感じさせてくれるからすごい。

まるで蜘蛛の巣のように道路が張り巡らされたイスラムの聖地マシュハドの夜景。そこへ舞い戻る1台のバイクはまさに毒蜘蛛。このイメージカットが秀逸。そしてその街の住民たちも同じく毒蜘蛛。権力をかざして肉体関係を迫る警察官やズレた倫理観からシュプレヒコールをあげる民衆や男尊女卑の思想にどっぷりと浸かってしまい被害者女性を荒々しく罵る女性。こんな現象、日本でもどこでも起き得るよね。なんて悲しい現実なんだろう…。

殺害シーンは目も当てられないくらいショッキングなものなんだけど、それ以上に衝撃的なのはやはり殺人犯の妻と息子の言動。娼婦は生きる価値もないし殺されて当然と無感情で言いのけてしまう妻の倫理観に背筋が凍る。そして殺人犯の父親をまるで英雄を称賛する様に誇らしげに語る息子。払っても払っても一向になくならない蜘蛛の巣がどこへ張り巡らされているのかを思い知る戦慄のラスト…。
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