このレビューはネタバレを含みます
ゾッとした....けど、面白かった!!
元・兵士のサイードは厚い信仰心を持ち、家族を大切にする根は善良な男にみえて、その実、自己顕示欲が強く、戦争の後遺症で情緒不安定な上、終いには遺体に欲情(殺した女の足を眺めながら妻と営む等々)するという、典型的なシリアルキラーである。
彼にとっての信仰は、あくまでも自らの歪んだ欲望を満たすことを"聖戦"などと誤魔化し、正当化するための欺瞞にすぎない。(そしておそらく、ターゲットが娼婦なのも、殺人を正当化しやすい上に、彼女たちが圧倒的に社会的な弱者であるからだ。)
にも関わらず、神の名を語り、殺しのターゲットが"娼婦"であるというだけで、世間は16人も人を殺した彼を英雄と崇め、家族も"夫(父)は正しい"と誇らしげな顔をしているのだ。
その光景は、ムスリムの信仰や文化的には"まあそうなるよね"と理解はできても、ゾッせざるを得ない。
しかし、この作品は、そんな中で信仰や世情に惑わされることなく自らの足で取材した"事実"をみつめ、その上で"正義"を貫こうとする人々の懸命な姿が物語の軸として描かれている。
そして、最終的に様々な"しこり"を残しつつも、彼らの苦労が報われたことにホッとした。
なんというか"教養"として観てよかったなーと思えた作品。
ラストシーンはおそらく、この作品をみて"サイードは正しい"という感想を持った人に向けた渾身のメッセージかな....と(アリが同じように人を殺すことを是としますか?という)