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聖地には蜘蛛が巣を張るのmizukiのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.2
イランが描かれる映画は、検閲が厳しいことが理由でものすごく少ないらしいので、あの手この手で製作して無事日本に届いているのが本当にすごい…。
頬にキスとか、女性の喫煙とかは、割とどの国でもなんてことない日常風景だと思うけど、イランはイスラム教が国教となっているため、頬にキスするシーンですらアウトらしい(おそらく、俳優の男女は現実では赤の他人であり、タブーな状況となるから)。女性の喫煙は、ミソジニーに立ち向かう意思表示としての意味合いが強いそう。
現地イランでの撮影は叶わなかったそうだが、逆に、イランを舞台として他国で撮影したおかげで制約があまりなく「リアルに近く撮れている」とジャーナリスト役の女優さんが言っていた(パンフレットより)。


私の中のモラルと正義と常識からすれば、娼婦をはじめとする水商売の女性が蔑まれるのは絶対に許せない。女性ジャーナリストが立ちんぼのフリをしている時に、道ゆく人に罵倒されるシーンは辛かった。聖典に背くとしても、生きるために体を売ってるんだからさ…。自分を売り物にする経験がしたくてソフトな水商売(ガールズバー)でバイトしてたことがあるけど、外で立っていると頭のてっぺんからつま先までジローって見られてウワ…って顔をして立ち去っていく男性をまあまあたくさん見ました。人は知らないものを拒絶するよね。これは個人的な統計だけど、軽蔑の眼差しをしていた人は自分の身なりに気を遣ってないんだろうなっていう男性だけだったな。人と積極的に関わらなそうな人っていうかね。身なりが整った紳士っぽい人ほど、目が合った時「今日は利用しないんで」みたいな感じで軽く会釈していっていた。"この人はこれでお金を稼いでいるんだ"、と割り切ってくれる感。コミュニケーション量や見識量が多い人ほど、受け入れられる人間のタイプは広いんだと思う。
水商売をほんの少し経験して思ったのは、全業種において自分の体を売ってるんだよなってこと。どのサービスを提供してお金をもらっているか、の違いしかない。悪質な商売以外、軽蔑できる職業はないと思うなー。

この映画では宗教的な理由で娼婦を蔑み、"街の浄化"と称して殺していた。犯人はとても真面目なんだと思う。絶対に聖典に従わなければいけないと思っている。裁いている気持ちもあったはずだ。犯人擁護派の人々も描かれている。その犯人が、国に裁かれ、死刑で殺されることには、私はあまり違和感を感じることはない。犯人の中の正義と私の中の正義が違うだけで、自分って犯人とそんなに大差ないよなって気持ちになった。


犯人の奥さんが、夫が16人の娼婦を殺したと知った時、開口一番「夫は悪くない。ゴミみたいな女たちをこの街から排除した。むしろいいことをした。」と言うのわかる。奥さんは平和主義っぽくて、おそらく本心ではない。聖典に背くとしても生活のために体を売る女性を殺していいとは思っていないと思う。でも、娼婦よりも夫の方が圧倒的に大事だから、口先だけでも夫の肩を持つ。"大事な人を絶対に見誤りたくない"というある種の正義だと思う。
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