ボギーパパ

聖地には蜘蛛が巣を張るのボギーパパのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.5
劇場2023-39 DENKIKAN

『ボーダー』のアリ・アッバシ監督作品。
事前情報はほとんど入れずの鑑賞。 
イランの聖地マシュハドで実際にあった16人の娼婦が殺された事件、スパイダーキラーを扱った作品。

いや、、、なんとも凄い作品であった。
というのが正直な感想。色々な要素が組み込まれており、整理していかないと頭の中がごちゃごちゃになっていて、、、
やはりこの監督の作品は一筋縄にはいかない。

本作を大きく分けると
①連続殺人犯とそれを追うジーナリストもの
②イスラム社会における法廷もの
③ 〃  社会における女性の権利もの
④ 〃  社会における男性性の醜い部分
③④は表裏一体としたら本作は3つの柱によって構成されていると思う。
しかしこの3つの要素が監督の手の中で一筋の縄に綯われている。

そもそもアリ・アッバシ監督は1981年テヘランで生まれ、ストックホルム留学そしてデンマークで映画制作を学んだそうな。このキャリアから見て、①〜④の要素を描くための社会経験を大いに積んできたのであろう。そして監督は本作はイラン社会を映す鏡、汚れて割れた鏡であってもイラン社会を映すものであってほしいと語っている。納得。

そして話の軸に居るのは
・帰還兵
・売春婦
・ジャーナリスト
・警察
・宗教家
・司法機関
そしてそれぞれの家族、、、、

前半は連続殺人もの
後半は一転、司法ものとなり、加害者家族を映し出す作品。上記の方々が、前述の通り監督の手により複雑な綯われ方をし、一筋の作品となっている。複雑にして、絶妙な絡み方で、イラン社会、いや我々の社会を絡め取っている。イランだけじゃないよ、この男性性と女性蔑視の構図は、、、

しかし後半はというと、この聖地における宗教的背景をもって描かれたパートとなり、イスラムを本質的に全く理解していない私にとっては、えっ?なんで?いやいやそれはないでしょ?的な場面が続出し、ホントにいやいや、、、それはそういっちゃぁお終いよであったり、そんなわけねぇだろがであったり、そんなら、そっちはどうなのさ?も、数多く出てくる、、、
宗教は人間を救うべきものと思っていても、人間の奥底に潜む攻撃性と、他者との比較によって自己のポジションどりをするこの性質には争いきれないのだと悲しくも思ってしまった。

また、スパイダーキラーの誕生の背景には戦争があり、戦争によって良心の持って行きどころを誤った所に、誤った形で出すモンスターにしてしまった部分も注目したい。本来ここを宗教が自己だけでなく他者への思いやりに導くべき所であろう、、、

しかしそうはならず、尚且つ宗教≒司法組織は正しいようで間違った、また間違っているにも関わらずなんとなく隠しながらも正しい?決着をつける。これはキリスト教的社会や仏教的社会においての司法もの作品には見ることがほぼない、とてつもなく悪質なグレー的色彩の結末だ。

更にさらに、家族だ、、、
信頼していた父がスパイダーキラーと判明してからの、この家族と周囲の描き方は苛烈というか、これこそ汚れて割れた鏡なのかもしれないものだ。嫌悪を抱いてしまう衝撃のラスト!このラスト凄すぎる、、、

私はこの作品と過去の『ランボー』『ミレニアム ドラゴンタトゥーの女』『ダーマー』『最後の決闘裁判』といった作品の要素が詰まっていると考えます。
さまざまなパートでこれらの作品と本作を対比しながら考えねばならないと思いました。

凄い作品!正直自分にとって今のところ今年のベスト級作品です。


以下どうしても言いたいネタバレ含む部分
⬇️⬇️⬇️


















まず冒頭に殺される娼婦の、普通の身支度から子供を優しく寝かしつけ、周囲の目に留まらぬよう家を出て、更に公衆トイレか?で娼婦の姿に変わるシーン。宗教的戒律の厳しい社会と聞いてはいるが、セックスワークがこの国、しかも聖地においてどういう風に見られているか、、、

しかし男はそれを求めている、、、しかも男は「女は劣っている」「女は教育など受けなくていい」という思想により必ず女性を下に見るのが、割れてて汚れた鏡だとしたらそれは必ず改めねばならない事だと声を出さねばならない。

これをまた別角度で描いたのはホテルのチェックインのシーン。あんなのないでしょ!
あからさま過ぎてむしろ笑っちゃっけど、酷すぎる

次に警察署長が何しに来るんだよ!あれはなんなのかね?みえみえ過ぎて怖いし、汚い!

次に子供が娼婦になった両親、、、あれはまた酷い。孫の気持ちも考えてやれよー。自分の気持ち最優先ではいけない場面だろうに、、、ここも割れて汚れた鏡なのか、、、

そして、裁判所に抗議のため集まった群衆!
ホントにそう思っているの?人権思想のかけらも感じられない行動!これも、これも割れて汚れた鏡なのか、、、

あと、ジャーナリスト。新聞社クビになって一発当てなきゃってところはこれまでも多くの作品で描かれているけど、いくらフリーの記者と言ってもアレはまずいよ!ダメ、ゼッタイ!


至る所にやりきれない憤怒の気持ちが込み上げてくるのは、監督の術数にまんまとハマっているのであろうが、それが映画の良いところ!ハマって少しでも理解する方向に進めればそれはそれで良い!
ボギーパパ

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