ツクヨミ

聖地には蜘蛛が巣を張るのツクヨミのネタバレレビュー・内容・結末

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

殺人鬼個人よりもそれを作った社会のヤバさが露見する脱構築的殺人鬼捜査もの。
"ボーダー 二つの世界"で有名らしいアリ・アッバシ監督、正直全然知らなかったが予告編での社会派殺人鬼っぽさが気になって見に行ってみた。
まず今作はアラブの聖地マシュハドで実際に起きた"娼婦連続殺人"を元にした映画らしく、同じような手口で娼婦を殺していく殺人鬼を捜査探索する話になっている。だが捜査する人物が女性記者だったり、もはや初めから殺人鬼の正体が鑑賞者側に提示されるというスタイルが新しい。
殺人鬼の正体というかシンプルに言えば退役軍人のただのおっさんなのだが、前半は捜査する女性記者と殺人鬼おっさんの動向をゆっくりとクロスカッティングさせて描いていく。殺人鬼おっさんの家族との日常と夜に繰り返す犯行とのギャップと、女性記者が捜査中に被るイスラム教ならではの女性差別と軽視とセクハラの現実に胸糞ーな印象つよつよでわりかしきつい前半となるのだ。
あと前半で顕著だったのは舞台がアラブの聖地なのに、下町の闇感が韓国ノワールみたいに嫌ーなじっとり感があるというか。そんな質感で女性記者がひたすらじわりとセクハラモラハラされるもんだから、さらに吐き気を催しそうになる。現代社会の闇のキツい感じがいい意味で染み出していた。また前半ラストのスリリングな逮捕劇もなんかジメジメしてていい感じ。
しかしそこからの後半は一転し法廷劇からの社会の恐ろしさを掲示していく、"神の名のもとに街を浄化する"という殺人鬼の言葉がイスラム教の教えに起因し、市民たちが殺人鬼を応援し異様な雰囲気を醸し出す。殺人を犯しても娼婦なら汚れを浄化するという名目で許されてしまうかもしれない、殺人が正当化される社会をリアルに垣間見る恐怖。そして事件は解決しても、社会がまた第二第三の殺人鬼を産むというヒッチコックもびっくりなラストの見せ方はまじで嫌ーなテイストだ。宗教と社会と殺人鬼を嫌ーな感じでリアルに描いた秀作だった。
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