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聖地には蜘蛛が巣を張るの顔のレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
5.0
凄惨な事件ほど、偏った見方をされることが多いと感じる。特に加害者/被害者に対しては、基本的に個人が持つ属性(今回であれば裕福な男性/貧困を抱える娼婦)によって起因を判断されがちだが、(実際報道される内容も視点が"個人"止まりであることが殆ど)真に問題があるのは、長年、国を"延命"させることを目的として積み上げられてきた、この歪な社会構造である。

聖地マシュハドで実際に起こった、娼婦をターゲットにした連続殺人事件を女性ジャーナリストと犯人、二つの視点で描いた、この作品。日本人目線では宗教国家であるイランにおける問題点が沸々と浮かんでしまいそうになるが、アリ・アッバシはイランという国家に対する批判ではない、と言っている。
確かに歪んだ信仰や腐敗した権力はイランという国が持つ問題かもしれない。だが俯瞰で捉えた時、この映画が映し出した事柄は殆どすべて、我々が生きるこの社会において問題と捉えるべきことばかりだった。貧困が生む悪循環、女性への差別、有害な男性性。起きる頃には帰るから、と我が子にキスをする娼婦。震える手を抑え、男とひとり対峙するラヒミ。何者かに成ろうとしたサイード。彼が犯した罪は決して許されるものではないが、ある視点においてはサイード自身も被害者と言えるだろう。

本当の"蜘蛛"とは何者か。
スパイダーキラーは何故生まれたのか。
今も尚、巣は張り巡らされ、子どもたちには卵が産みつけられている。

前作ボーダーはファンタジック故に現実との差異で価値観を揺さぶられるような作品だったが、今回は一層冷徹な現実によって自分が見ている世界全体を揺さぶられた。

ラヒミがヒジャブを雑に扱っていたのが印象的。ラヒミを演じたZar Amir Ebrahimiがこの作品で主演を飾るまで歩んだ道についても、知っておくべきだろう。

アリ・アッバシ、事象の平面図化がマジでうますぎ
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