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聖地には蜘蛛が巣を張るのTSのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
3.9
【「英雄」の蛮行】83点
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監督:アリ・アッバシ
製作国:デンマーク他
ジャンル:犯罪
収録時間:118分
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 中々考えさせられる映画でした。2000-01年にイランで実際に起きた娼婦連続殺人事件から着想を得た作品だそう。ひたすら最後まで犯行現場が生々しく映されていて、重たい映画です。加えて、とある思想にとらわれた人間とはかくも恐ろしいものかということを再認識できます。

 イランの聖地マシュハドでは、娼婦を狙った連続殺人が横行していた。この事件に目をつけたジャーナリストのラヒミは真相を探ろうとしていくのだが。。

 マシュハドはイランの首都テヘランに次ぐ第二の都市であり、またシーア派の聖地でもあります。興味深いのが、「富者はメッカへ、貧者はマシュハドへ」という言葉があるくらい、シーア派の聖地としての地位を確立しているということです。となると、過激な思想を持つ者も少なからず。恐ろしいことに、今作に出てくる犯人は、娼婦の殺人を「街の浄化」として理論を正当化してきます。なるほど、男尊女卑が根強く残る文化の中で、娼婦はそのさらに最下層の部類になってしまい、そんなものに手を染めてしまう者は悪だと感じているのでしょう。しかし、娼婦もそれがしたいからなっているのではないというのは一目瞭然であり、そうでもしないと生き残れないのです。この犯人も男であるため、どこまで男が女を転げ回したら気が済むのだと思えてしまいます。お門違いもいいところ、、と思いたいところなのですが、さらに恐ろしいのはこの犯人の思想、行為を支持する者たちが一定数いるということ。イスラームのシーア派をここで非難するわけではありませんが、やはり宗教というのは諸刃の剣です。一旦思い込んでしまうとブレーキがききません。全て神の仰せの通りに、と言って終えば終わりですし、自分たちに責任はないのです。とは言え、この犯人の犯行はお世辞にも計画的とは言えません。また、この犯人には家族もいるし、普通に働いていて金には困っていないのでそもそも犯行をする動機が初心者からみたらないようにも見えます。ただ、先述した強い思想がこの犯人を動かしているとなると見えてくるものもあります。実際、後処理などもかなり杜撰であるため、いつバレてもおかしくない、そんな犯行です。それでも捕まらない犯人。これ以上は伏せますが、さまざまな要因があるのです。

 それにしても、こんな危ない仕事にジャーナリストのラヒミはよく携わったものです。一番恐ろしいのが、ラヒミがおとりとして犯人の家に行くところでしょう。おとりとはいえ、少し間違えていたら死んでいたでしょうし、命をかけるほどのものであるのかと思えてしまいました。そこからの裁判の状況も唖然となりましたし、最後の展開も、ギリギリ胸糞展開ではないものの、やはりわだかまりが残ってしまいます。

 犯人の娼婦への殺害方法は基本絞殺です。冒頭に犠牲となる娼婦から、ラヒミがおとりになるまで何パターンか絞殺の現場を見さされます。血はあまりでないものの、非常に恐ろしいシークエンスです。こんな簡単に人が命を落としていいのだろうか。

 ある意味、デスノートの夜神月の思想が垣間見れてしまう作品です。あれはノートに名前を書くだけで、直接手を下していないから賛否がわかれますが、これに関しては誰もが認められないでしょう。といいたいところですが、現地の人の中には彼を英雄視する者もいるのです。そして、その思想は受け継がれていくのです。。ただ、不謹慎ではありますが、こういう作品はやはり考えさせられ、見応えがかなりあります。良い作品に出会えました。
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