みんと

聖地には蜘蛛が巣を張るのみんとのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.0
『ボーダー 二つの世界』のアリ・アッバシ監督が、2000年代初頭イランに実在した殺人鬼サイード・ハナイによる娼婦連続殺人事件に着想を得て撮りあげたクライム・サスペンス。

不気味で異様な世界だった。そして、イラン映画にしては攻めた描き方に意表を突かれた。

「街を浄化する」と言う信念のもと、犯行を重ねる殺人鬼(スパイダー・キラー)の正体は早々に明かされる。そして真相を追う女性ジャーナリストの危険を顧みない取材ぶりには手に汗握る。けれど本題はその先にあった。家族と暮らす、至って普通のおじさんの狂気を通してイランの闇が炙り出される。

強烈に浮かび上がる、女性への文化的、宗教的抑圧の状況。貧困故身体を売ることでお金を得る。それを否定するならば、そう言う女性を生み出さない社会の構造を変える以外解決はないのに。
娼婦は汚れているから殺しても良い。人々は恐怖を抱く一方で、犯人を英雄視する市民も少なからずいて、事件を覆い隠そうとする圧力も働く。

根強い家父長制、女性蔑視による歪んだ善悪がまるで、蜘蛛の巣の如くイラン社会に広がっていく様子は、観ていて背筋がゾクッとする恐怖でもあった。

コレが許されてしまう世の中に救いなどあるだろうか。
そしてコレが決してイランだけの話ではなく、同じことが今も世界中で起こっているならば…。

最終的に、ミソジニーという悪しき思想の継承は、決して消えることはないという、強烈なメッセージを突きつけられるラストに身動き出来なかった。


イランの社会構造そのものが、この連続殺人犯を作り上げたことを提示する本作は、当然イラン国内からの製作費捻出と撮影は厳しかったらしく、デンマーク・ドイツ・フランス・スウェーデンなどヨーロッパ各国からの出資で製作され、撮影自体はヨルダンで行われている。監督もこの映画の完成にはかなりの苦労があったとのこと。
みんと

みんと