よしまる

聖地には蜘蛛が巣を張るのよしまるのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.0
学生時代からスウェーデンに留学し、さらにデンマークで映画を学んだイラン人監督のアリアッバシ。

女性の身体を撮影して上映することが出来ず、内容も反政府的なものに対する厳しい検閲の待つイランでは、イランの内情を描いた映画は作れない。ということは、イランで作られた映画には本当のイランは映っていないというわけだ。

実際にイランで起きたという娼婦だけを狙うシリアルキラーによる連続殺人事件を北欧からの視点で描いたスリラー。
日本人にとって馴染みの薄い世界だけに、何が起こるかわからないハラハラ感は特筆もの。
誰が犯人か分からない訳ではないというのに、主人公の女性記者が事件に1歩1歩と深入りしていくたびにドキドキしてしまう。キャンプ地でバカ騒ぎしている若者が殺人鬼に襲われるほうがよほど安心感がある(笑)

宗教による肌感覚の違い、腐敗した警察、実態の見えてこない政府や世論、そうした世界まるごとHOWスリルというのが、平和な日本人にはなかなかキツイ。
それもやはり祖国をよく知る監督が北欧というこれまた極端に個人の尊重される国で学び育った視点を持って描くからこその独特なニュアンスが生まれているのだろう。
実際にイランでは撮影すら出来ず、半ば違法手段を取ってでもイランの撮影素材を持ち出したり車両を移送したりとそれこそスリルに満ちた製作背景があったらしい。

さらに監督のインタビューでは、取材を重ねるうちに犯人に共感を覚えるところまで行き着いてしまった、ようなことを言っていた。
さすがストックホルムシンドローム💦💦
てな冗談はさておき、それ故に犯人が捕まってハイおしまい!みたいな映画ではなく、果たして捕まえた犯人は本当に悪人なのか、世論は、観客はいったいどう思うのか、そこまで描く必要があると感じたそうだ。

確かに犯人とのチェイスだけでも十分スリリングな映画なのだけれど、犯人がなぜ犯行を繰り返したのか、それに対して人々はどんな反応を示すのかというところまでアプローチしたことで、作品に深みが生まれ、観る者にもより多くのことを問いかけてくるに至ったのだと思う。

ラストもハッピーエンドと見せかけて深い深い余韻を残して終わる。
それはアッバシ監督が、イランを題材にした良質のエンターテイメントとしてのスリラーという形を取りながらも、間違いなく「みんな、イランを見てくれ!」という熱い想いを込めたために他ならない。

よしまる2023年公開の洋画ランキング第7位。カウントアップしてきましたがここまでが4.0点台。オススメです!