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聖地には蜘蛛が巣を張るのmplaceのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.3
イラン国家に深く根付いている女性蔑視と男性優位社会を、娼婦を次々に襲う連続殺人鬼とそれを追う女性ジャーナリスト、さらに彼らを取り巻く者達を通してサスペンスタッチで批判的に描いた良作。

映画の原題は「Holy Spider」、つまり「聖なる蜘蛛」であるがこれは勿論冒頭から登場する殺人犯スパイダーキラー【サイード】のことであり、彼を神聖な人物として英雄視するイラン社会の闇の深さを皮肉的に扱ったタイトルでもある。

自分が実生活では経験し得ない国の文化や慣習、または架空の世界での出来事を疑似体験したり学んだりできることが映画鑑賞の醍醐味でもあるが、その欲求をバランス良く満たしてくれた作品のように思う。残酷なシーンが苦手な人には辛い映画かもしれないが、この作品が実際にあった事件を元に描かれているという事実と、そもそも何を正義とし悪とするかの価値観が狂ってしまっている世界に絶望を感じてしまうシーンが登場するが、その恐怖の方が実際にはよほど大きい。
そして我々もまた無自覚にそのような女性を抑圧する社会の片棒を担ってしまっていないか、自問自答する機会を与えられているようにも感じた。

この作品でジャーナリストを演じたエブラヒミは過去に母国イランにおいて発生した性的スキャンダルの為に最低10年間女優業に従事することを禁止された上に当局に逮捕されるリスクが生じ、他国へ亡命せざるを得なかったという。そのような過去を持つ彼女が抜擢されたこともこの作品にまた一つのリアリティを与えている。
この作品でカンヌ女優賞を受賞したのを機にエブラヒミは表舞台に返り咲いたそうだが、その受賞も納得できるぐらい凄味のある演技であった。
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