【ひとこと説明】
「サメに食べられたい」という特異な願望をもつ若い女性のモノローグ映画。完全にモノローグであり、鮫は一度も出演しない。
【感想】
良質なプログレ映画だった。高校生の時にPrimusを初めて聴いて、「こんな音楽があるのか!」と衝撃を受けた感覚を思い出した。
サメに喰われたい願望を叶えるべく複数のビーチを巡るが、それぞれの場所で周囲の人間観察をして皮肉的な思索を巡らせるばかり。その内容がシュールでブラックでシニカルで笑ってしまう。
90分の語りに通底するのは「自分はspecialでupperな存在だから、大いなる超越者と一体になりたい」という”崇高”な願望。”母なる海”で”人間的”な習性を持つサメを神格化して渇望しているけど、ビーチにいる赤の他人のことも(意外とたやすく)好きになってしまう人間らしさがあって可愛い。
「関係のない言葉を並べてカバーしているなんともダサい手法だが、聞き手に徹することにした。おそれくこれは彼女が唯一知っている話し方だからだ。」とかいう癖に「赤いビキニのことが忘れられな」かったりする両価性も、主人公の幼さが出ていて愛くるしい。崇高な自己像と、寂しがりな本性のギャップ。
「私が死んで棺に入ってもスピーチの時には貝殻のことについて話す」、「いい少女として老人と会話した。若い女性と長い間喋っていないだろう。社交的かつ知的に会話を弾ませた。彼の若者への印象を改善しているのだ」
ラストは意外な展開で良かった。
彼女が求めていた大いなる存在との一体感は、やや違った形で叶えられたのだろう。