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ゴールデンカムイのしののレビュー・感想・評価

ゴールデンカムイ(2024年製作の映画)
3.7
これは実写化邦画における第二の『キングダム』になりそうだ。

監督が撮影のイメージとして『レヴェナント:蘇えりし者』を引き合いに出していたとのことだが、タイトルバックにその覚悟が出ていたと思う。正直、杉元とアシㇼパがバディになる物語としては消化不良な作りだが、ラストで2人が銀世界を歩く画(とその冒頭との対比)だけである程度押し切られてしまう。自然は偉大だ。

冒頭の203高地から姿勢を正した。その後も、たとえば道中の林で追手に追われるシーンなど、ちゃんと引きで画がもつし、川に飛び込むところなどはもはや見ていて心配になる。こういう抜けのいい大自然の画があるから、食事シーンや村のシーンの「温かみ」が対比的にテーマを際立てる。実景の映画ならではの実感だ。

この辺りは、シリアスとコミカル、光景を見せる引き画とキャラを見せる寄り画といったメリハリとしても機能していた。それこそ『キングダム』では「戦場で急に運動会ノリになる問題」とか「スケール大きい場面で役者の顔に寄りがち問題」があったりするので、本作のバランスは貴重だ。あえて言えば衣装が綺麗すぎる問題はなんとかして欲しいが、「ちゃんとワイドに映すところは映すんだ」という意志を感じた。

反面、一本の映画として見るとやや散漫で消化不良な構成にはなっていると思う。刺青を集めるという大筋に沿って動くかと思いきや、いつの間にかバディが解消するか否かの話になるし、そのうえ中途半端に土方歳三のシーンとか入れてくるのでドラマも進まず、最後の最後で回想頼みになってしまうという。普通だったら、バディ解消のピンチを乗り越えて何かしら成功をおさめる等のカタルシスを設定すると思うのだが、基本的に防戦でしかない。最終的に杉元が明かすエピソードも、「元々こういう目的がある」という話でしかない。つまり、話としてもドラマとしても前進がほぼないのだ。これは原作準拠の弊害か。

しかしそんななかでも、何かに感謝して生きるという「ヒンナ」スピリットが作品のコアとして刻まれているのは良かった。本作では手と手を繋いだり重ねたりする演出がフィーチャーされている(杉元とアシㇼパの出会いとクライマックスの反復、あるいはフチが杉元に感謝を述べるシーンなど)。ミドルクレジットが杉元のあの台詞で終わるのも象徴的だ。自分は原作未読だが、「クセの強いキャラとのトレジャーバトルのなかで、自然や他者に感謝して生きていく」という(恐らく)シリーズの大枠の構造は理解できたと思う。

いずれにせよ、実質これは壮大なパイロットフィルムでしかないので、とにかくこの先を作ってくれないと話が始まらない。MCUもDCUもグダグダになったりして、「数年にわたり映画で一つのシリーズを追う」ことのワクワクを久しく感じられていないなか、個人的には『キングダム』や『ゴールデンカムイ』など国産シリーズがその役を担ってくれるのなら嬉しい。それだけのポテンシャルを感じるほど邦画のクオリティは上がってきている。ただ、今後『ゴールデンカムイ』が『キングダム』と同様の展開をしていくとして心配なのが、この2作は主演含め制作陣が丸かぶりしているということだ。どちらもそれだけで撮影の負担がかなりあるシリーズだろうし、果たして身体がもつのか……。毎回ハラハラして見守ることになりそうだが、身体を労わりつつ頑張ってほしい。

※感想ラジオ
【ネタバレ感想】原作ファンも新規も楽しい!『ゴールデンカムイ』は実写化映画の成功作になるかも? https://youtu.be/iJijuHOrbDI?si=bJcG_udRFKN0EdLc
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