くまちゃん

ゴールデンカムイのくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

ゴールデンカムイ(2024年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

今作の実写化が決定しビジュアルが公開された時点で大多数がこう思ったはずだ。「また山崎賢人かよ」と。そんな下馬評を見事に覆すスマッシュヒットを飛ばせたのは原作へのリスペクトとキャラクターの再現度の高さからだ。だがそれでもなぜ山崎賢人なのか。他にも適任者はいたはずだ。ただ映画を鑑賞する限りそれほどの違和感は感じない。ここで誤解してはならないのが決して杉元佐一というキャラクターに山崎賢人がマッチしていた訳では無い。山崎賢人は自身のイメージとかけ離れた杉元佐一をも演じることができるという彼個人のスキルが証明されただけなのだ。つまり漫画原作の実写化作品において制作陣は山崎賢人に頼りすぎている。それはスタッフのキャストに対する信頼であり怠慢でもある。実写化作品への参加経験豊富で華があって主人公感があってアクションもできる。何より演技が抜群にうまい。そんな稀有な存在は山崎賢人をおいて他にはいない。杉元佐一のイメージとはかけ離れてるが山崎賢人ならなんとかしてくれるだろう。実際に彼は今作の撮影に10kg増量して臨んだ。その真摯な姿勢が業界人に評価されているのかも知れない。役者陣は誰もが100%のパフォーマンスを発揮している。だからこそ既成概念に囚われない適材適所を熟考する必要があるだろう。でなければ制作陣も役者陣も様々なフィルターに晒され損をすることになる。

マイノリティを扱う作品において必ず注目されるのが当事者を起用するか否か。人種やセクシュアリティ、障がい者等この問題は多岐にわたる。2016年公開の「リリーのすべて」では世界で初めて性別適合手術を受けた画家リリー・エルベをエディ・レッドメインが演じた。当時トランスジェンダーの役をノーマルなエディが演じることに批判の声が上がっており、現在はエディ自身、出演したことを後悔している旨の発言を残している。
デヴィット・リンチの「エレファント・マン」がイギリスでのリメイクが決定した際、障がい者がキャスティングされないことへの批判があり、反対に石井裕也の「月」では配給会社のプロデューサーから障がい者を映画に出演させるなと指摘があったそうだ。
有色人種を白人が演じるホワイトウォッシュはこの手の問題の最も議論されているところだろう。
今作ではタイトルの通りアイヌを題材として扱っている。「カムイ」とは神格を有する高位の霊的存在のことであり、それに対して「アイヌ」とは人間を意味する。原作者野田サトルは徹底した取材の下「ゴールデンカムイ」を書き上げた。
文化、風俗、食事、衣装、細かな場面やキャラクターの行動に心理描写、その全てにアイヌへの並々ならぬ拘りがありありと確認できる。これはただの粋狂としてアイヌを取り上げたわけではない。アイヌでなければならない必然性がそこにあるのだ。つまり今作においてアイヌ以外がアイヌを演じることに関しても考えねばならぬだろう。
しかし漫画はあくまでフィクションでありデフォルメされた世界観を現実に照らし合わせるとリアリティラインに大きな違和感が生じてしまう。
ではアイヌ集落の場面がなぜあれほどのハイクオリティを演出できたのか?
それは秋辺デボと大方斐紗子の存在がとてつもなく大きい。
アシリパの大叔父を演じた秋辺デボはアイヌ民族の舞踊家であり木彫り職人である。アイヌにルーツのある人物が1人登場することで他のキャストも同化政策を切り抜けたアイヌ文化の継承者然とした佇まいに見えてしまうのが不思議だ。ただ配されるだけではない。秋辺デボの画力が観客にそう錯覚させるのかもしれない。
アシリパの祖母フチを演じた大方斐紗子はその再現度がネットでも話題に上がった。それはアイヌ語、文化監修を務めた言語学者の中川裕と秋辺デボの二人も絶賛するほどの完成度。大方斐紗子の都会っぽくない見た目もさることながら50年を超える芸歴の中で地道に培ってきた役者としての矜持が見て取れる。

今作は漫画の実写作品としてもアクション映画としても見応えがある。ただ、そろそろ山崎賢人を次のフェーズへ誘うため、2.5次元世界からの開放を考えるべきではないだろうか。
くまちゃん

くまちゃん