幽斎

ノック 終末の訪問者の幽斎のレビュー・感想・評価

ノック 終末の訪問者(2023年製作の映画)
5.0
私はシャマラニスト「5.0!」野暮なツッコミは御遠慮願いたい(笑)。M. Night Shyamalan監督はインドで病院を経営する一家に生まれ自らも医師を志すが、現在は私の師匠Alfred Hitchcockの系譜を受け継ぐ正統派スリラーの伝承者。Tジョイ京都で鑑賞。

監督は皆さんご存じアレで商業的に成功を収めたが大作「エアベンダー」「アフター・アース」尽く撃沈、ハリウッドの居場所を一気に失う。声を掛けたのがヒッチコックの系譜を受け継ぐメジャー、ユニバーサル。初期のテイストを再現した「ヴィジット」復活。レビュー済「スプリット」続くレビュー済「ミスター・ガラス」自身の邸宅を抵当に入れ資金を捻出し全額自費で制作、シャマラニストの熱い結束で(笑)、北米1位を奪還し見事に表舞台に返り咲く。前作レビュー済「オールド」COVIDを逆手に取るプロットが絶賛され北米1位を獲得し作家性と商業映画の難しいアンビバレンツに成功。

監督作品の権利は全て本人が保有、理由は「続編を他者に作らせない」。前作「オールド」成功で当初はフォレスト・ガンプをインスパイアしたスリラー「Labor of Love」制作する筈。しかし、ハリウッドのThe Black Listの本作の原案に興味を持ち此方を優先(後述)。シャマラニストならご存じだろうが、監督の作品は監督が脚本も書く。他人の本で過去に何度も失敗して封印をした「禁」を破った。うーん、嫌な予感しかしない(笑)。

原作はアメリカの人気作家Paul Tremblay著「The Cabin at the End of the World」。ホラー作家協会のブラムストーカー受賞。アメリカの書評アグリゲーターも絶賛、Stephen Kingは「これは考えさせられる、しかも恐ろしい」コメント。当時は日本では洋書しか選択種が無いので、Kindle版で読了済。現在は本作公開に併せ、表紙も訂正され竹書房より「終末の訪問者」絶賛発売中。

原作と脚本を監督がリライト。私の裏ベストムービーの続編「ブレードランナー 2049」Dave Bautistaの演技に感嘆した監督は彼を当て書きする様に変更。ネタバレを防ぐ為にタイトルは伏せて制作されたが、ユニバーサルの予告編が原作ソックリと噂に為る。原作との違いが多く(後述)、ロサンゼルスのシアターでは上映前にスマホを預けると盗撮防止の袋に入れ、帰る時に封が解けて無ければ袋が貰えた。ソコには「Make Your Choice?」書かれてた(笑)。

評価はアメリカで擁護派と懐疑派に真っ二つに割れ、全米で放送されるトークショーで、批評家が激論を交わす程。正直に言えば興行的には微妙。シャマラニストの結束で北米1位は死守したが「オールド」を下回る、キャリア最低のオープニングと厳しい船出。スリラーを見慣れない一般の方(語弊は認める)が有名なアレの様な驚愕のラストを期待したら、見事に肩透かしを喰らった。本作のテーマは原作と同じ「究極の選択」。「Make Your Choice?」聞くと、私の生涯一位作品「SAW」を想い出すが、選択の根底に有るのが「Apocalypse」アポカリプスはキリスト教の黙示、神が選ばれた預言者。新約聖書のヨハネ黙示録。私は元クリスチャンですが、コレが理解不全だと作品の真意も伝わらないが、日本人に解るワケ無いやろ(笑)。

終焉と言えば2008年「ハプニング」。日本ではチンプンカンプンと酷評されたが、アレ(シックスセンス)とか「SAW」の様に、素人でも(語弊は認める)「ナルホド!」膝を打つ作品は希少、監督の思慮は観客に委ねられる。ソレを意味が分らない事を棚に上げ「丸投げだ!」酷評する。「ハプニング」未見の方は目を細めて欲しいが、私の師匠の代表作「鳥」決してパニック映画の元祖ではなく「鳥は自然を乱す人間に復讐する」コレが真意。「ハプニング」も環境汚染と原発事故。東日本大震災を予見した、と言う気は毛頭ない。

終末の事象は極身近に或る。武漢ウイルスCOVIDの世界的な蔓延。ウクライナ侵攻と言う名の戦争。5万人以上が死亡したトルコ大地震。大局的に見れば人口激増に依る食料不足。アメリカには古くから「The Great Reset」陰謀論のパッチワークが或り、最近は「昆虫食」だがCharlton Heston主演!1973年「ソイレント・グリーン」は有名。究極のグレート・リセットは地球温暖化。二酸化炭素では無く太陽の活動が活発で将来的に「秋」が無く為る。ディザスター映画Nicolas Cage主演2009年「ノウイング」太陽フレアで地球壊滅、興味の有る方は「第3の選択」面白いよ(笑)。

監督の作品は一言で言えば「暗闇レストラン」。何も見えない、自分が何処に居るか分らない、そんな空間で「何が出て来るか分らない」を味わう。先入観を捨て集中する事で見えて来るのは、新たな「多様性」。納得して共感するか?、意図が掴めず絶望するか?、サステナブルと思えば貴方も今日から立派なシャマラニスト!(笑)。今回の監督はフライヤーの通販番組にカメオ出演。

【ネタバレ】ヨハネ黙示録の考察に移ります、以下は自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

【飛蝗と蝗】冒頭でKristen Cuiが意味有り気に集めるバッタ。私は昆虫の知識は幼稚園以下(笑)、鑑賞後に京都の大学で節足動物を研究する友人に尋ねた。相変異と群生相で分類され遠くまで飛べる相変異が飛蝗バッタ、飛べない群生相が蝗イナゴ。お互い終末と関係の深い昆虫ですが、「エクソシスト2」大量のイナゴは悪魔の演出。イナゴは聖書に登場、災いや呪いを齎す存在。「蝗害」とはバッタは四方の食物を食べ尽す。アフリカで大量発生して食料飢餓が起きた。逆にイナゴは人間が食べちゃう(笑)。イナゴの佃煮とか炭火焼は長野県の名物らしい。バッタは煮干しっぽい味だとか。バッタを集める行為は自ら災いを呼び寄せるメタファーと言える。

【ヨハネの黙示録】レビューを御覧の方はヨハネの黙示録なんて読んだ事無いよ、と言う方がほゞ全てでしょう。「まどろっこしい」関西弁で無い気もするが、簡潔に言えばノストラダムスの大予言ほど抽象的ではないが、世界が終わりを迎える時「アレがコウなってコウ起きると次にアレがソウなってコウなっちゃう」みたいな(笑)、避難マニュアル的な感じ。故に本作の「四人」にも意味が有り、其々に役割が科せられる。

【7つの封印】短気なBen Aldridgeに対しJonathan Groffは知的な設定で、台詞の端々に信仰が感じられたが、「Like The Four Horsemen of the Apocalypse」訪問した四人が「四騎士のようだ」ハッキリ理解してる事が伺える。四騎士はヨハネの黙示録第6章~第8章で登場するSeven sign「7つの封印」最初の四つの封印が解かれる際に現れる。度々アメリカ映画に登場するが、具体的には第一の封印「白い馬、反キリストが現れる」。第二の封印「赤い馬、戦争と殺し合いが起こる」。第三の封印「黒い馬、飢饉がやって来る」。第四の封印「青白い馬、地上の4分の1が死ぬ」。第五の封印「殉教者の魂、血の復讐を神に願う」。第六の封印「大地震や天変地異が起こる」第七の封印「7人の天使に7つのラッパが与えられる」。ラッパとは「神の裁きが下される」と言う意味。

【四騎士】7つの封印と四騎士を本作に当て嵌めると、Dave Bautistaは白いシャツなので第一の騎士、メンバーのリーダー的役割で職業も教師で人を導く。Rupert Grintは赤いシャツで第二の騎士、世間に恨みを持ち災いを齎す。短気なBen Aldridgeとトラブルの過去も有る。Abby Quinnは原作と違い黒では無く紺色のシャツで第三の騎士、飢餓を招くとは反対の食を養う。Nikki Amuka-Birdも疫病を意味する青白いシャツでは無く、正反対の看護師。女性だけ違う設定に変えた監督の意図も興味深い。

【戦争と飢餓】四騎士が死ぬ事で災いが発動するヨハネの黙示録で戦争と飢餓は本編では描かれ無い。四騎士の後で第五の封印が解かれると殉教者が血の復讐を求めると記されてる。第六の封印が解かれると地震や天災が引き起こされる。最初のRupert Grintの死は第五の封印と解釈。恨みに依る復讐と考えれば、第六の封印の地震や水害や落雷の天災と結び付く。ニュースで流れた映像はCGではなく、実際にトンガで起きた大規模噴火のフッテージ。Dave Bautistaの死で第7の封印が解かれ「暫くの沈黙の後、祈りが捧げられる」天災で人類は死滅する、誰かが「究極の選択」をしなければ。

【御使】ヨハネの黙示録は7つの封印が解かれた後、第8章の続きとして、4人の「御使」が地の四角に立ち四方の風を引き止め、地にも海にも全ての木に吹き付け無い様にして、神から選ばれし144000人が居る話に繋がる。御使(みつかい)聞き慣れないフレーズと思うが、簡単に言えばキリスト教で主の使い。新約聖書の福音書やエペソ書にも登場するが、監督の描いたアポカリプスが、四騎士では無く四人の御徒と解釈すれば、Jonathan Groffがイメージした「光」とは、人類の生存の可能性を見たと解釈、光の人物が神からの御徒と考えられる。だから訪問した四人の御使は、四騎士の馬に沿わない色を示した。自ら犠牲を払う事で災いを防ごうとしたJonathan Groffの選択で人類は滅亡を逃れた。

【携挙】ヨハネの黙示録はまだ続く。144000人が神から選ばれると、7のラッパを吹く7の天使が現れ7の災難を起こすと示されてる。災難には7の金の鉢と言う具体例も有る。ソレは「松明の様に燃える大きな星が空から落ちて来る」現代の解釈では「航空機の落下」を意味しニュース映像も流れた。プロテスタントに於けるキリスト教の終末論「Rapture」携挙(けいきょ)に通じる言葉で、此れをプロットにしたスリラー映画Nicolas Cage主演「レフト・ビハインド」思慮深い宗教映画だが、意味の分からない日本人は勝手に酷評。Left Behindはヨハネの黙示録が実現していく世界、と言う意味。

【真の家族愛】監督が日本の諺「人の噂も七十五日」知ってるとは思わないが、本作は終わりでは無く、アメリカにも「Disaster will come when you forget」災害は忘れた頃にやって来る、と言う格言が有る様に、人は何でも喉元過ぎれば忘れてしまう、特に日本人はソノ傾向が強い。Cuiの口唇裂は中国人に多い先天性の奇形、アメリカでは手術で治癒出来るが、中国の富裕層は事前診断で中絶してしまう、貧困層も面子を気にするので養子に出してしまう。Ben AldridgeとJonathan Groffはゲイのカップル、アメリカにも同性婚は人類を滅ぼすと忌み嫌う層は居る。安易な養子問題や「Homophobia」ホモフォビア、同性愛差別を取り入れたのも、監督が少数派のインド系アメリカ人だから。

【ノックの回数】冒頭でDave Bautistaが何回ノックしたか憶えてますか?(笑)。キリスト教の終末論では数字の「7」色濃く影響。本作もノックされる回数が「7」、此れから災いが訪れるサイン。彼ら三人がキャビンで過ごしてる間、既に戦争と飢餓が起きた後で、最後の四つの災いを残し、人類死滅の「Make Your Choice?」猶予と考察できる。青白いは前作「オールド」武漢ウイルス。第二の封印「赤い馬」具体的には描かれませんが、赤と言えば「ロシア、中国、北朝鮮」監督がなぜ予定を覆して本作を制作したか?、ソレはウクライナ侵攻への危機を感じたからだ。

【真のエンディング】Jonathan Groffの犠牲で世界は救われたが、残念ながら黙示録には「まだ」続きが有る。私は劇場で観ながらBen Aldridgeが灰色のTシャツを着てる事に注目、御使の考察を彼に当て嵌めると、博愛主義的なJonathan Groffと対照的に彼は人の死を招く拳銃を所持する。第四の騎士はハーデース、ギリシャ語のChlorosはアメリカでは「灰色」と訳され、野獣を用いて人を死に至らしめる。此処でCuiが獣医に成る夢とリンク。Cuiが獣医として成功、「灰色」髪毛をしたBen Aldridgeが迎えに来たビジョンを見たが、私には不穏しかない。エンドロール後、誰かがドアを「7」ノックしたから。

【原作との相違点】原作ではNikki Amuka-BirdとDave Bautistaの死ぬ順番が入れ替わる。原作の方が解釈が広がり創造性も豊かに成る。ソレより驚いたのは原作ではCuiが死んで世界が救われたのに、映画はJonathan Groffだった件。此処まで映画を前提に考察したが、原作のオチを考えると、もう一度書き直す位に意味は違う。原作を知る私の様な予習バッチリに対するサプライズ(笑)、監督の「素人でも分るどんでん返しはやめた」宣言。次回作も大いに期待したい。

2008年「ハプニング」のメタモルフォーゼ。余韻が忘れられない黙示録スリラーの傑作。
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