ShinMakita

アウシュヴィッツのチャンピオンのShinMakitaのレビュー・感想・評価

1.9

1940年。開所したばかりのアウシュビッツ収容所で強制労働を強いられるポーランド人の中に、タデウシュ・ピトロシュコスキがいた。所内でリンゴを盗んだかどで処刑されかかったところを同房の少年ヤネックの機転で助けられて以来、肺病持ちのヤネックと友情を深めていくタデウシュ。ある日、労働監視員の1人がタデウシュの素性に気づいた。実はタデウシュは、戦前「テディ」のリングネームで活躍したプロボクサーだったのだ。監視員の口利きで、親衛隊員たちの娯楽のため所内でボクシング試合を見せていくタデウシュ。看守を相手に試合に勝てば食料と薬品を貰えるため、囚人仲間たちの声援も熱くなっていく。連戦連勝でチャンピオンに君臨し、ヤネックの体調もクスリで回復してきたことで笑顔を見せるようになるタデウシュだったが、別収容所から応援で赴任してきたボクシングチャンプの親衛隊員ハンマーパンチの登場で彼のボクサー生活に暗雲が立ち込める…



「アウシュビッツのチャンピオン」


以下、〈働けばネタバレになれる〉。


➖➖➖


働けば自由になれる…というのはアウシュビッツ収容所の門に掲げられた標語。最初はポーランド人やドイツ人犯罪者の収容から始まったアウシュビッツでしたが、もちろんこの標語が実践されることはありませんでした。ユダヤ人のガス室虐殺も描かれてはいますが、ビルケナウ本格始動前なのでまだ小規模。とは言え、そのリアルな凄惨さ(悲鳴を消すためにトラックをアイドリングさせるなど)は観客を鬱々とさせます。主人公のテディはガス室送りの可能性は比較的低い位置にいましたが、監視員たちの暴力やナチ連中の暇つぶし処刑の危険は常にあり、やはり死と隣り合わせの生活だったのは間違いないでしょう。ナチの「遊びのコマ」として弄ばれながら、必死で生き抜き、最後にボクサーとしての矜持を見せるテディの姿はやはり感動的。パワーではなく知恵とディフェンススキルで相手を倒していくボクシングスタイルにも目を奪われました。

ちなみに、これと似たような話を見聞きした記憶あるなぁと思い調べてみたら、1989年にウィレム・デフォー主演の「生きるために」という映画がありました。こちらは1943年のユダヤ人サラモ・アラウチの実話で、本作よりも悲惨な話のようです。
ShinMakita

ShinMakita