ノラネコの呑んで観るシネマ

ヒンターラントのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

ヒンターラント(2021年製作の映画)
4.3
第一次世界大戦後のウィーンに、ソ連に抑留されていた捕虜の一団が戻ってくる。
神と皇帝と祖国のために戦ったはずだったが、皇帝の去った荒廃した敗戦国では、帰還兵は鼻つまみ者。
そんな時、帰還兵の一人が残酷な拷問の末に殺される事件が起こる。
主人公は元刑事の帰還兵。
彼は犯人の残したメッセージを読み解き、その正体を追いはじめる。
全編がトラウマを抱えた主人公の心象風景として描写されていて、カメラは不安気に傾き、ドイツ表現主義の再解釈の様に、シュールに歪んだ背景が合成されている。
タイトルはドイツ語で後方の土地、いわゆる「銃後」を意味する。
安全なはずのウィーンに戻ってきても社会に溶け込めず、殺し合うことで内面の傷を剥き出しにする帰還兵たちの悲劇。
内容が内容だけに、咽せ返る様な陰鬱なムードが充満する。
人が人で無くなる戦争、それでも過去に折り合いをつけねば生きて行けない。
決して楽しい映画ではないが、映像的な未見性も高く、なかなか良く出来た心理スリラー。
ナチス胎動の時代の不安感もよく出ている。