じゅ

ヒンターラントのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

ヒンターラント(2021年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

エンドクレジット流れてくときスクリーンの上半分で英語に切り替えるの初めて見た。親切じゃん。


「hinter land」は作中の字幕でしれっと訳を教えてくれてたけど、「後ろから」みたいな意味なのか。舞台がオーストリアで、オーストリアの公用語はドイツ語らしいので、たぶんドイツ語。

第一次世界大戦後のオーストリア、ウィーンに帰還したペーター・ペルクと部下たち。捕虜収容所から解放され、戦後2年が経過してからの帰還だった。
その頃から発生した元兵士を狙った連続殺人事件。刑事だったペルクは、同僚であり警視になったヴィクトア・レンナーに捜査の協力を求められるようになる。レンナーの部下のセヴェリンは、ペルクに疑いを抱いていることや、同じく戦場に赴いた兄がまだ帰らないことから快く思っていなかった。しかしペルクが戦前に数々の難事件を解決していたことを知ると、信頼を寄せるようになる。
ついにペルクは犯人の動機に気がつく。収容所にいた頃、捕虜の脱走時に連帯責任で別の捕虜が殺されていた。そこで、脱走を防ぐための捕虜による「委員会」が作られた。ある時20人が脱走計画を企てたが、1人が罪悪感を抱いて委員会に報告し、委員会は脱走計画を兵士に報告した。19人は拷問にかけられて18人が死亡、報告した1人は気を病んで狂った。件の連続殺人で殺された者は皆その委員会の委員であり、殺された捕虜と同じ拷問にかけられていた。一連の事件は、生き残りの1人による委員会への復讐だった。
委員会の最後の1人はペルク。家族を人質に呼び出された寺院で、犯人は最後の復讐に臨む。ペルクのメッセージを受け取って駆けつけたセヴェリンは、逃げようとする連続殺人鬼の腹に銃弾を撃ち込んだ。その人物は、捕虜が解放された後も帰らなかった兄だった。最後の力を振り絞ってペルクに銃口を向けた兄を、ついに再会を果たした弟が射殺した。
事件が解決した後、「逃げてはならない」と悟ったペルクは、帰還も告げずに離れたままだった妻と娘の元へ。


っていう、大筋もうめちゃめちゃにやるせない物語。「ヒンターラント」の訳語からはとてもとても想像つかねえ展開じゃないか。ソ連にやられた虐殺の復讐が自国の共に地獄を生き延びた戦友に向くか...。
しかも、犯人だった兄貴はただセヴェリンより同じ親から先に生まれただけのやつじゃなくて、ヒーローだったんだ。少年の頃に廃船で遊んでて床が抜けて船底に落ちた時、捜索隊にも見つけられなくて誰もが諦めた後も兄貴だけは諦めないで見つけてくれた恩人だったんだ。

行く宛のない帰還兵がなだれ込んだ救貧院も散々だったな。なんか、死の危険だけ廃された収容所ってかんじ。
と思ったら死の危険もあった。ペルクが惨殺の動機に気づいて救貧院に向かった時、たしか例の20人のうちの委員会に告げ口して気が狂った1人だったと思うけど、レンナーが早とちりで撃ち殺した。あいつ、ペルクの妻と体の関係を持ったけど決して愛されないことを悟ったってくだり以外ずっとヘラヘラしてたな。そんな軽い命だったか。


オーストリアというかオーストリア=ハンガリー帝国。皇位継承者のフランツ=フェルディナント夫妻がセルビア人青年に暗殺された(サラエボ事件)背景にセルビア政府が関与していたと断定して、1914年にセルビアに宣戦布告した。オーストリア側には同盟国ドイツが、セルビア側には英仏露の三国協商が付いて第一次世界大戦に発展した。
中立を守っていたイタリアも、1915年のロンドン秘密条約によりトリエステと南チロルを併合し、協商側で参戦した。その後アメリカも協商国側で参戦する。
オーストリアの敗北が決定的になると、1918年10月から12月にかけて支配下の民族が一斉に独立を宣言した。チェコスロヴァキア共和国、ポーランド、ハンガリー、セルブ=クロアート=スロヴェーン(後のユーゴスラヴィア)が独立を宣言した。11月、オーストリア=ハンガリー帝国は停戦協定を結び、帝国は解体となった。1919年10月、憲法制定議会が「オーストリア共和国」の国号を決定した。

なんかざっくりそんな流れらしい。ペルク達の帰還は終戦から2年後だから、1920年頃かな。皇帝への忠誠を胸に帝国から出兵して、皇帝のいない共和国とかいうわけわからん国に帰ってきたわけだ。
祖国が変わった。人もなんか変わった。自分達も皆どこかブッ壊れた。誰彼構わず「何がわかる」と言うペルクのことをわかってやれるであろう元兵士は殺し殺されている。レンナーの話でも、大体殺すのは元兵士で殺されるのも元兵士だと。家を出た妻と娘に会いに行けなかったのも、つまりは自分との間の重要な何かが変わってしまったかもしれないと恐れた故か。

まあ最終的に会いに行ってよかったんだろなあ。ずっと国内にいたレンナーが言った通りきっと妻が愛したのは夫だけで、そこはずっと変わらなくて、晴天が再会を祝福してくれたんだろう。


ところで、撮影は全編グリーンバックか何かで撮って背景は全部CGにしてたのかな。なんかそんな雰囲気だった。よくそこまで作り込んだなと思いました。
じゅ

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