月うさぎ

コラテラル・ダメージの月うさぎのネタバレレビュー・内容・結末

コラテラル・ダメージ(2001年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

2001年秋の公開予定が9.11のテロにより延期されたらしい。
消防士がテロと戦うストーリーだからです。
ヒーローの美談として米国としてはウエルカムなんじゃないの?と思うでしょう?
違ったんです。
タイトルの「コラテラル・ダメージ」(collateral damage)は直訳すると「付帯的損害」
この映画では『国家利益のための犠牲』という意味を持っているのです。

【ストーリー】
消防士ゴーディー(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、待ち合わせした妻子の元へ向かったまさにその時バイクが爆発し、妻子は彼の目前で死亡した。
コロンビアのゲリラ組織「コロンビア解放軍」が、敵対関係にあるコロンビア政府とアメリカ政府、CIAの要人を狙ったテロに巻き込まれたのだった。
ゴーディーは犯人の目撃情報を捜査当局に伝えるが、ゲリラとの和平交渉を優先する当時の政府方針から捜査は行われない。
妻と息子の死が「コラテラル・ダメージ(国家利益ための犠牲)」に過ぎないと考えられていることに怒り、犯人逮捕のため単身でコロンビアに乗り込みゲリラに立ち向かう。

しかし本作はなんと、テロを仕掛ける方にも事情があるという部分を描いている(アメリカにしては)珍しい作品です。
ゲリラのリーダー・ウルフは娘を米軍に殺された過去を持ち、それから人が変わったと言います。
ならばゴーディ―の立場と一緒だし。
いや、むしろ祖国を蹂躙されているだけゲリラにとっての大義のほうが大きいでしょう。
米軍により国が二分され、貧富の差が生まれ、闘争地域では人が常に死んでいる。
テロを仕掛ける理由は、米国に対し「コロンビアから手を引け」という要求一点のみなのだから。
大義を語るなら、ゴーディの動機は単に個人的な恨みに過ぎない。
復讐の一念を「あの時笑っていた非道の男」ということにこだわって怒りを燃やすしかない訳です。

その上、突き詰めて考えるなら、彼の息子の死因は自国アメリカに責があるということになるではないですか。
だからゴーディは受勲を拒否するのです。
苦い復讐の成功をかみしめつつ。
ウルフの養子を引き取るのは、同情と彼なりの罪滅ぼしなのかもしれません。

最後のウルフの携帯電話のメッセージ――「起爆解除」が謎を呼んでいるようです。
私の解釈はやはり最後に自らの意志で爆破をやめたと考えています。
でなければ、わざわざ映像でクローズアップする必要が無いからです。
「俺をいつ殺すんだ?!」という叫びの意味を考えれば、さらに、そう解釈せざるを得ないでしょう。

予備知識なしで観たのですが、意外に深い国際事情が描かれていました。
コロンビアの内戦問題と米国の介入。
日本ではあまり知られていなかったように思います。勉強になりました。


この映画の最大の話題はシュワルツェネッガーが一般人の立場で闘うってところ。

消防士なので銃を使うシーンがゼロです。武器は爆発物や斧だったりします。
でもこの戦闘能力はもちろん一般人とは言えませんね。
シュワちゃんのアクションに関しては銃を使わなくても爽快ですよ!

一方で、シュワちゃんのアクションに単純にすっきりしたい人には、悪人退治の復讐劇とは言い切れないためスカッとしない、言外に割り切れなさが残る映画だという点が弱点でしょう。

テーマはとてもいいと思うんですよ。
やりようによってはいくらでもいい作品になり得た気がします。

シュワちゃんの映画なので、お約束パターンを「入れなければならない」
という部分がどうもこの映画をちぐはぐなものにしてしまっているように感じました。シュワルツェネッガーの映画でなければ、ヒットはしないかもしれませんが、より深い印象を残す映画になりえた可能性が高いです。

もう一つ、ウルフ役のクリフ・カーティスは全然極悪者に見えないですよね。
実際に彼はニュージーランド出身のマオリ族だそうです。
そう思って見るとさらに人がよさそうに見えちゃう。
南米人や中東人役をおもに引き受けているらしいですが、日本人役で中国人を使うよりももっと失礼なキャスティングでしょう。

今もテロや立場の違う人の衝突は止みません。ウクライナでの戦争も続いており、悲しいです。
なぜ人は争うのでしょうか?
月うさぎ

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