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シニアイヤーのLCのレビュー・感想・評価

シニアイヤー(2022年製作の映画)
3.8
面白かった。

20年の間昏睡状態だった主人公が、高校生活の中で取り戻したいものの為に奮闘する物語。

20年前と今との違いを描きつつ、変わらぬ大切なものも見せてくれる。
上手だなあと思ったのは、昔も今も、根底にあるものは変わらないことがわかるように描いているところ。
他者に輝いて見えることが大切で、その為の称号が「イケてる恋人持ち」とか、「イケてる見た目」とか、「性の充実」とかだった。それらが時間経過と共に、「フォロワー数の多少」とか、「閲覧数やコメント数を稼げる動画」とか、「マイノリティへの気遣いの表明」とかになっていく。それらを満たせば、輝いている人として認識してもらえる。
ただ、主人公も含めて、それらを「他者にわかりやすく示す」ことに特化してしまって、その為に結局誰かを隅に追いやっていることになかなか気付けない。
「お年寄りにも親切に」と配信した彼女は悪気なく「人気者仕草」をしただけで、主人公の気持ちには配慮されていないし、主人公も同じように誰かを傷つけてきたわけだね。

他者からの賞賛が己の人生における価値判断の全てになると、「ダサい」とか「ガリ勉」とか「根暗」とかって言葉に簡単に危機感を抱く。わかりやすくて派手で刺激的なものが、いつの時代も支持を集めるものだから。目に映るわかりやすさや派手さ、刺激の内容は、時代によって違いはあるかもしれないけれど。
昏睡する以前の日々で、母親の言葉に耳を貸さず、必死にお化粧している主人公の姿は、当時も今も共感できる人は多いだろうと思う。現代はルッキズムが強くなっている、なんて声もあることだし。
見た目を磨いても良いのだけれど、見た目だけを磨くと、結局人として他者に大切にされない。そのことをよく表現してくれたのが、クイーンばかりを狙う彼なんだね。「あそこで踊ってるホットな女は俺のものだ」ということに快感を覚えるので、クイーンを人として大切にする姿勢は最後まで見られない。「こんな女とヤレる俺は最高」という認識のみで生きている。
そんな人の恋人になることが、他者に羨んでもらえるイイ女の証になる。狭い世界に住んでいればこそかもしれない。
付け加えるなら、「母親だからそういうこと言うんでしょ」も間違いで、親だろうが自分の子に散々罵詈雑言を浴びせて劣等感に苛まれて生きる姿を楽しむ人も、存在する。
母親だから娘である私を美しいと言うのは当たり前、なんて、それこそ広い世界も、示されている愛も見えていない。そんな人が、クイーンは幸せで完璧な人生の象徴で、愛してもらえる、と信じている。面白いね。

SNSって最高、フォロワーをたくさん獲得しよう、とはしゃぐ主人公に「虚構の世界だからね…?」と一応は伝える彼の心配を思う。心配しないわけないよなあ。数を集める為なら何だってやりそうだもの、主人公は。公衆の面前で胸を揉まれても「愛情表現」と受け取る人だし、性を売り物にする路線は全然あったかもしれない。30後半の体という自覚が良いブレーキになっていたのかな。
数が多いからって、そのうちの何割が中身をちゃんと見ているかもわからない。寧ろ、自分で中身の良し悪しを判断できない人は、数の多いものに乗っかっとけばハズレない、と思っていたりもするし。中身はそうでもないけど、よく話してくれるから、よく「いいね」返してくれるから、お返し、という人もいるし。それらが良い悪いという話はしてないよ、念の為。
目に見える判断基準は、そのもの自体の質と直結しないこともあるよね。
たくさんフォロワー獲得したり、いいねもらったりすることが、君自身の素晴らしさの証になることはないんだよ、と、言葉で伝えることもできるけれど、ぐっと飲み込んで見守る。そんな彼の優しさは、なかなか報われない。

様々な要素を、現代を象徴するようなものも交えて、見ている人をクスッとさせながら進むお話は、騒々しくてエネルギーに溢れている。
色んな価値観の人がみんなで踊る場面は、「ひとつのことでひとつになれる」ことも示してくれて好き。分断されるよりも、ひとつになる方が難しいんだけれど、それが叶った時に生まれるエネルギーは大きなもので、EDの持つ多幸感もうまいアシストになっている楽しい表現だと思う。
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