幽斎

パラミドロの幽斎のレビュー・感想・評価

パラミドロ(2021年製作の映画)
4.0
バルセロナ近郊に在る海辺のリゾート地Sitgesで毎年10月に開催される映画祭から厳選された作品を上映する、シッチェス映画祭公認「ファンタスティック・セレクション2022」。アップリンク京都で鑑賞。

タイトルホルダー的な上映会でシッチェスが一番好きかなと思う今日この頃。以前は東京まで下向(笑)、ヒューマントラストシネマまで行く必要が有ったが、アップリンク京都が出来て随分と楽に成った。同時にシネリーブル梅田へ行く機会も減って大阪の事情にも疎く為る。スタンプラリーでTシャツをゲットとかグッズに興味は無いけど、東京、名古屋、大阪、京都、神戸以外でもオープン・マインドされる事を期待したい。

シッチェス2022では「ビハインド・ザ・ドア 誘拐」レビュー済。今年の6作品のラインナップでは本作が一番前評判が低かった。フタを開ければスペイン映画の悪しき点が強調された様にも見えた。因みに友人から「ぼくのデコ 23歳のヴァンパイア兄貴」吸血鬼コメディと聞いて食指が伸びないので、何時まで待ってもレビューは出ません(笑)。

悪しき点の一つが食い合わせ、料理の世界では「合食禁」。SFとホラーとコメディと言う、お寿司とカレーとラーメンを一緒に食べる(異論は認める)。スペインらしく元闘牛士の冴えない親爺とエイリアンの戦いを描くロードムービー。怪我で闘牛士を引退した親爺はライドシェアの運転手。ワケありな母と娘、メキシコ女性の3人を乗せ目的地へ向かう。しかし、怪我をした女性ハイカーを病院に運ぼうとして悲劇の幕が上がる。生き残るルールは「彼女を隣に座らせてはイケない」。一言で言えば盛り過ぎなんですよ色々と。

原題「La pasajera」乗客、邦題「パラミドロ」に意味は無く、ホラーに詳しい友人に依れば、人間に寄生するからパラサイト。邦画で松竹には珍しい怪奇特撮映画「吸血鬼ゴケミドロ」勝手に拝借したんじゃない?と言ってたが、ミドロと言えば私の住む京都には深泥池が有るが、ソレに苔で有名な西芳寺を合せたモノらしい。1968年の映画だけど、お前何歳だよ(笑)。確かにヘドロを連想させるが、グッちょりなオドロオドロしいイメージとは裏腹に、スペインらしくスカッと爽やかな作風が意表を付くかも。

何か良い映画風に語ってますが、スペイン映画の悪しき点の二つ目「前置きが長い」。演出でキャストの立ち位置を分かり易く描く英米の映画に対し、スペイン映画は、成熟した演出を確立した監督は少なく、キャラクターのみならず、性格や個々の関係性を良く言えば丁寧に、普通に言えば伝わらない恐れを避ける為に、クドい説明口調が続く。前置きの長さに観客は寝ちゃう人も居るかも。実際、アップリンク京都はシッチェスが基本レイトショー扱いなので、オジサンがビール飲んで寝てたよ。レビュー済「ビハインド・ザ・ドア 誘拐」違う人のようで「イビキ」無かったのが救い(笑)。

グロ満載でスペインらしい陽気な音楽と阿鼻叫喚の地獄絵図の落差が激しく、シッチェスらしい「コレぞB級!たまんねえ」な方にはハマる。トレンドを一周遅れで取り入れた感が強く、親爺の蔑視発言にウンザリする女性客。エイリアンに、ジェンダー問題も取り入れた野心作と自画自賛する古さが頭痛い。Raúl Cerezo監督ともう一人の共同監督、共に長編デビュー作だが、制作途中で色々揉めたらしい。Cerezo監督が自身の短編を出展する為、シッチェス映画祭(ソウ言えば地元やん)へ行く為に、金が無いので「カープール」広島じゃなかけん(笑)。一台の車に複数人が一緒に乗り合わせる、日本で言う相乗り。コレで行く途中で本作を着想したらしい。しかし、色んな人にアイデアを求めたら、脚本を他人に乗っ取られた。映画だけじゃ無く監督もエイリアン(他人)に寄生された。

スリラー目線で言えばロードと言う割に旅の始まり起点、目的地の終点の距離感が全く分らないので、スペイン映画の悪しき点の三つ目「起承転結が弱い」。英米の映画ならさりげなく地図を出すし、標識で街まで「あと何キロ」観客に分らせる。昼間のシーンが少ないのはエイリアンのボロ隠しで、外の景色も暗い山道。全ては超低予算の為だが、此の監督は演出の基本が出来てない。もう少し観客目線も大事にすべき。

ソウは言ってもエイリアン同様、得体の知れない監督同士の作品がシッチェス・セレクションを通過する訳無いので、スペイン映画の良い所「最後は任せとけ!」悪しき点を全て引っ繰り返して、ラストは必ず盛り上がる。気質かも知れませんが、ミステリー小説も同じセンテンスで、イタリアのGialloの様なドッキリではなく、曲がり為りにも伏線は有り終盤の畳み掛ける展開は、キチンと脚本を精査した後も伺え、SFとホラーとコメディ、食べ放題のバイキングを彷彿とさせるサービス精神を、破綻なく畳んだ点は流石シッチェス通過と評価出来る。

スペイン映画はまだMisogynyとMisandryの違いが分って無いのが残念だが、車内と言う密室は一見すると緊迫した場面を作り易い印象が有るが、皆さん「絵コンテ」知ってると思うが、監督がイメージする頭の中の構想を、撮影前にイラスト化して出演者や撮影監督にビジョンを説明する設計図。良いスリラー映画とは、此の絵コンテの善し悪しで作品が決まると言って過言でない。本作もハッタリをカマした演出が、オリーブオイルを利かせた様な味わいで、ラストシーンは貴方の記憶にも残るだろう。スペイン料理と言えば「子羊のロースト」美味しいよ(笑)。

人生から転落した男の再生物語も、〆はヤッパリ闘牛。私からも一言「乾杯!」(笑)。
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