ベビーパウダー山崎

パシフィクションのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

パシフィクション(2022年製作の映画)
4.0
でかいスクリーンであの大波のくだりを目撃しただけで十分。終盤のイメージの羅列が陽が射す間の美しき景色とはまるで逆さまの、行き場のない者たちが静かに集まる退廃的なクラブで流れる不穏な音楽と共に暗闇で蠢く怪物の目覚めをただ待っているかのような虚無的な時間。意味のない、芯を喰わない、始まったときからすでに終わっている会話がだらだらと繰り返され、誰が誰のために何の目的で動いているのかよく分からない不透明な関係性、掴もうとすると橙色の夕陽に誤魔化されてしまい、でっぷりと貫禄のある中年になっていたブノワ・マジメルがいくら高性能の双眼鏡で覗いたとしても実態は見えてこない。
肌の露出が多く、誰もがすぐに身体を求めてもおかしくないのに濡れ場は描かれない、断として描かない。過去作の積み重ねがあり、その上でなにもない空っぽの映画を撮るアルベルト・セラ。太太しく強い。半裸の女性がDJブースに立ちダウナーな音楽をかけている、クラブ(ダンス)のくだりをキメて撮れる作家は貴重。三時間弱、こちらの想像をどこまでも刺激してくる表現は至高。ラストの船のくだりは蛇足。