耶馬英彦

新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まりの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

3.5
 劇場でバレエを観たことは一度もないが、本作品を観ると、何故かバレエの公演を観たような気になる。そして少し感動する。バレエ作品にではなく、ダンサーや演出家の熱意と努力に感動するのだ。

 体力の4要素という考え方がある。瞬発力、持久力、調整力、それに柔軟性である。スポーツや格闘技にはどの要素も必要だが、ダンスにおいては、すべての要素を最高レベルにしておかないと、ポテンシャルを十分に発揮できない。
 そのために気力の充実が必須なのは言うまでもないが、コロナ禍のせいで長い間まともな練習ができない日々が続き、どのダンサーもモチベーションを上げるのに苦労している。気力が充実していないと集中力が散漫になり、能力を出せないだけでなく、怪我をする恐れもある。演出家はそこを一番に心配する。

 バレエ公演の準備から本番までをダンサーや演出家の目線で見せてくれたのは、実に有意義であった。ナタリー・ポートマンの「ブラック・スワン」では、主役を勝ち取るためにダンサー同士が鎬を削る様が描かれていて、バレエそのものはちっとも魅力的ではなかったが、本作品を観て少し見方が変わった。
 ミュージカルやオペラを鑑賞するように楽しめばいいみたいだ。といっても、日本ではバレエのチケットは結構高いので、同じ金額で映画が5本以上観られるなら映画の方を選んでしまう。バレエダンサーの収入がチケット収益に頼らなくていいような文化の保護ができれば、バレエのチケットももっと安くなるし、日常生活にバレエ鑑賞が組み込まれやすくなる気がする。
 しかし文化を保護する気がない日本の政府にはそんなことは到底無理だ。だから優秀なダンサーは海外に流出してしまうのだろう。
耶馬英彦

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