とりん

プアン/友だちと呼ばせてのとりんのレビュー・感想・評価

プアン/友だちと呼ばせて(2021年製作の映画)
3.9
2022年80本目(映画館40本目)

白血病を患った青年ウードの頼みごとを聴くために久しぶりに故郷タイに帰ったボスとのやり残したことをやる旅を描いた作品。
個人的にはおそらく初めてタイ映画を劇場で観た。
監督は「バッド・ジーニアス」で注目を集めたバズ・プーンピリヤである。ちなみにその前作は観ていない。

あらすじで見ていた通り、余命が近いウードが自分の気持ちを整理するためにも、元カノたちに会いにいく話。他の方の投稿でも見ていたが、前半と後半で流れや雰囲気がガラッと変わる。
後半の展開はてっきりBL的な展開あるのかなとか勝手に妄想してしまっていたが、全く違くて、想像以上にドロッとした内容だった。
ボスとしてはウードに人生を狂わせたと言っても過言ではないし、決して許されることではないかもしれない。それでも彼は許すことも許さないとも言わず、ただ自分の人生について幸せだったと語ったあの言葉はすごく良かった。
彼がプレイボーイになったのも心の傷からであるけど、彼自身その人生を自分のものにして生きてきた。だから後悔はないのだろう。でも心の中ではきっとプアンのことはあったはずだ。
全てはウードが悪いのかもしれないけれど、彼自身も様々な思いがあったのだろう。あの描写だとあまり彼を許そうと思っても、嫉妬からのあの行動を受け入れるという気持ちにはあまりならないけど。

このボスとウードとの対比がよく表現されてたなと。
最初はボスはチャラい適当なやつでウードは真面目で良い人そうな雰囲気が出ている。まぁそう言ってもウードはあのNYにいた期間で内容が濃い恋人が3人もいたというのは、思ってたより長い期間NYにいたのか、それぞれの期間が短いのか、まぁこのあたりは自分と感覚が違うだけだからまぁ良いか。
どの女性に対してもちゃんと向き合い、愛していたように思えたし、まぁその中で綻びがあったからこそ破局して、自分の中でのわだかまりを解消、彼女たちへの感謝の意味も込めてあの旅なのだろうけど。ただその彼の良いやつ感は後半で崩れる。嫉妬心の塊とまではいかないが、内面ドロッとしている。それに対してボスは実は純粋で一途なやつだったということがわかる。この対比が前半と後半でまた変わるというのも面白いところだと思う。

前半の軽やかさと後半の重たさが意外とバランス良かったのかな。あの軽さがあったからこそ、あの重たさが生きてくるし、それも重すぎず受け取ることができる。そしてあの清々しいラストへと繋がるのだ。
前半のウードの元カノたちに会いに行くところはテンポも良く、スタイリッシュでオシャレな感じもあった。この辺りは製作に携わっているウォン・カーウァイの作品にも通ずるところがある気がする。
この余命わずかとかやり残したこととかを題材にした作品はこれまでにもたくさんあるし、あの後半の話においても割とありがちな話で、今作において新鮮味のある話や描写というのはそこまでない気がする。それでも惹きつけられた要素としては前半のあの雰囲気と前半と後半の対比の上手さ、そしてあのラストがあったからだろう。

タイトルの「プアン」はタイ語で"友達"という意味のようだけれど、本作"友達"という言葉を前面に出すような感じではない気がするんだよなぁ。原題は「One for the Road」、"最後の一杯"や軽い感じで飲みに誘う"帰りがけの一杯"という意味があるようだ。どちらも映画の内容としても合っているし、カクテルがキーとなっているのてしっくりくる。邦題は少し残念な感じかな。そのせいと日本の予告の表現やポスターの雰囲気からBLと勘違いしてしまったのかも。

音楽がかなり良くて、特にエンディング曲であるヒットメイカーStampの「Nobody Knows」は素晴らしかった。ちなみに本曲向井太一による日本語バージョンもあるらしい。
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