よしまる

ミセス・ハリス、パリへ行くのよしまるのレビュー・感想・評価

4.5
 「オートクチュール」に続いてまたまたDiorを取り上げた映画が公開された。これは見逃す手はない!
 というのも、タイトルだけ見たとしてこれがDiorじゃなくてただのおばさんのシンデレラストーリーだったらたぶん観てなかっただろう。やはりハイブランドというのは一般人にとってはえもいわぬ魅力がある。

 事実、映画を観てみたら冒頭の記念すべき10周年コレクションのショーはそのあまりの美しさに時に深く溜息をつき、時にアと声を上げてしまいそうになるほど。まだこうしたドレスが、好きな人が好きな時に買うことが出来なかった時代、そして素材から縫製まで1ミリたりとも手を抜くことなく最高の品を生み出していたメゾンの描写もまたこの映画を観る値打ちを高めている。

 そりゃこれだけのものを作っていたら何ヶ月もかかるし、そのぶんの人件費だけでも大変な額になって当たり前。そしてそれに憧れるのは何も高価だからという理由ではなかったのだろう、少なくとも最初のうちはね。ちなみにハリスさんの欲したドレス👗、今の貨幣価値で言うと1着170万円くらいになるらしい。

 そんな素晴らしいオートクチュールに魅了された、お手伝いさんとして働く戦争未亡人のハリス夫人。運も味方につけてパリへ行き、それまでとはまったく違ったセレブリティーの世界を体験する。
 このカルチャーショックがコメディとしての根幹を支えており、金持ち勢に対する皮肉や、ハイブランドの傲りも面白おかしく描くことで観客を庶民の目線からブレさせることがない。
 ユペールさんという大物女優をヴィランに配してまでそれは貫かれ、いつしかハリスさんを全力で応援してしまう構成がお見事だった。

 Diorの全面協力によりPR映画と見られてしまう節もなくは無いけれど、あれだけのドレスを映像として再現されるとぐうの音も出ないどころか、それでこそ、この物語の説得力も高まるというもの。
 原作には無かったというラストのDiorの粋な計らいもまた、映画としては出来過ぎで、もう涙なしには観られない。

 あれやこれやとつっこみ出したら夢も何もなくなってしまう。でも夢心地でひたすら世界に入り込める、こんな映画がボクは好きだ。