幽斎

CHASE チェイス 猛追の幽斎のレビュー・感想・評価

CHASE チェイス 猛追(2022年製作の映画)
3.8
レビュー済「グリーンランド 地球最後の2日間」Gerard Butlerが立ち寄ったGSで忽然と姿を消した妻を探す、追い詰められた男の暴走劇の幕が開く。未体験ゾーンの映画たち2023。アップリンク京都で鑑賞。

原題「Last Seen Alive」生きた最後の姿。此の作品の話を友人にすると結構な確率で「ああ、Russell Croweって同じ役ばっかだね」そない似てますGerard ButlerとRussell Crowe?(笑)。どうやらレビュー済「アオラレ」と混同してる様だが、強ち間違いでも無い。アオラレは交通ルール無視、法定速度無視、法令順守無視の3拍子揃ったプロットがウケたが、ソレはオスカー俳優Russell Croweの存在感有ればこそ。

Butlerは自らプロデューサーとして制作する作品が多い。本作もAntonio Banderas主演「ブラック・バタフライ」どんでん返しスリラーを制作したBrian Goodman監督と脚本家Marc Frydmanを呼んで「俺もクロウみたいな役をやりたい!」と「炎のデス・ポリス」製作中に依頼。脚本に「CHASE」と言うタイトルが付けられ製作スタート。制作費は格安の590万$、目ぼしい俳優は「マイティ・ソー」Jaimie Alexanderしか居ない。

プロットが昭和テイストの古さ、時代を取り入れた新しいツイストも感じられず、悪役も山椒の様に小粒。アメリカでしっかり劇場公開されたが「Butlerが96時間をコピーした」と、アオラレを真似たつもりが96時間と酷評の嵐。私も午後ローで流し見するなら良いかも、程度の評価。だが、公開4ヶ月後にNetflixが買上げると、最も視聴された映画としてランクイン。タイトルも「Last Seen Alive」改め、7億回を超えるレビューを記録。稼いだButlerはイランを舞台に今度こそ「96時間」をパクった作品を製作(笑)。

スコットランドの弁護士の資格を持つインテリのButlerの趣味は「読書」。彼の出世作「オペラ座の怪人」演技力は申し分なく、一方でアルコール依存症で悩んだり、ADHD注意欠陥障害で、長い台詞が憶えられない欠点を克服して今が有る。デビュー作が私の大好きな「007トゥモロー・ネバー・ダイ」だが、ボンド通でも「出てたっけ?」存在感が無いので探してね(笑)。未体験ゾーンの映画は別名「貧困晩餐会」、爆破シーンの火力が足りないとか、脅迫、暴行、窃盗、器物損壊、警察官への偽証、誘拐、殺人。コレだけやらかして麻薬カルテルを撲滅したからチャラ、とか重箱の隅を突けば色んなモノは出て来る。

ソレを払拭するのがButlerの存在感。此処だけ「アオラレ」と拮抗する。彼が黙って座ってるだけで永谷園のお茶漬けなら、ご飯3杯はイケる(笑)。ハリウッド・スターとは過去のレガシーを観客も憶えてる、首謀者に捕まりパイプ椅子に座らされても「ソレがどうした」顔芸だけで万事休すに全く見えない。妻が失踪すると言えばLiam Neesonの代表作「アンノウン」ですが、本作の場合「警察なんてまどろっこしい」本能で誘拐と分る聞き分けの良さ。性交した、違った成功した証のキャデラック・エスカレード、新車なら1700万円する車に乗る(ナンバープレートが隠されてた、自前?(笑)、経営者ですが、彼のガン・ショットの正確さは異常。絶対副業で殺し屋もやってるに違いない。

B級では無くギリA級を保ってるのも、彼の演技力の賜物。おんぶに抱っこの製作陣はかなり救われてる。配給したB級専門Voltage Picturesも、マサカ自分達の作品に「Butlerが出てくれた!」歓喜して、劇場の落ち込みを救うべくNetflixに売り込み面目を保つ。プロデューサーのButlerが資金面で困ったと言う話は聞いた事が無い。私はスリラー派なので劇場で観乍ら、妻が首謀者とグルでButlerを陥れる。真っ当な考察をしたが、ソレは寄寓に終わった。映画人OFFの彼は物静かで外出も余りしないらしい。ハリウッド・スターが専用のトレーラーハウスに居るのに対し、撮影中の彼はスタッフと一緒にケータリングを頬張る庶民派。仕事が途切れない理由は、人間性に依る所が大きいのだろう。

演出面で良かったのはButlerが元海兵隊でも刑事でも無く一般人。妻の実家周辺と言うテリトリーも緊迫感を高め、捜索のアウェイ感も演出。Liam Neesonを真似たと酷評されたが、導入部のButlerへの感情移入は「ブラック・バタフライ」彷彿とさせた。彼が妻のミッシング・リンクの張り紙を一年後もしてた、と言うホラー・テイストも在り得るプロットで、Butlerの一般人が起こしそうなリアクションも割とリアル。減点対象は回想シーンのインサートがソコじゃない感、アクションの流れを乱してる様に見えた。アメリカでは「Surprisingly sleepy~」驚くほど眠い、と酷評されたが、私はアメリカで就労経験が有るけど、ホントに女性の誘拐って日常茶飯事に起きるので、息を吐く様に人を浚うリアリティを描いた意味では悪く無かった。

彼が好んでBarbarian、粗野+粗暴な男を演じるのは偏に観客の期待に応える為。アクション映画とは昔も今もストレス発散に存在価値が在るから、普段の社会や職場や妻から抑圧される鬱憤晴らしをButlerの姿に重ね「俺だってホントは暴れたいんだ」映像を通して叶える。勘違いする観客に「Butlerって普段でもコウじゃない?」と思わせれば彼の勝ち。アオラレ風に言えば車40%、足で稼ぐ60%と53歳まだまだ元気。何をしても妻から距離を置かれるが、不倫されても必死に居場所を探す姿は健気を通り越して不憫。瑕疵が有るのは妻側で異論ないが、不倫したり実家に帰る!と言い出す妻を一生懸命支える根拠はヤッパリ身体の相性?。妻が氷の微笑並みにキンキンに心が冷えてるのもお構いなし。私には全くハッピーエンドに見えなかった(笑)。

邦題は「Vanishing 暴走」じゃない?。次回はCIA工作員で、またお逢いしましょう!。
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