ぴんゆか

Stop-Zemlia(原題)のぴんゆかのレビュー・感想・評価

Stop-Zemlia(原題)(2021年製作の映画)
3.1
ウクライナ出身の監督の映画ということで視聴。
高校卒業を控えた主人公とクラスメート達の動向をドキュメンタリー風に追った物語。
作品自体は2021年のベルリン映画祭で既に公開、クリスタルベア賞を受賞しており、その後昨今の状況も踏まえてか、修正を加えてこの度公開となった模様。
好き嫌いが別れそうだが撮り方が特徴的で、各々シーンの間に登場人物がインタビュアーを通すという体で心情を吐露する場面が挟まれる。

ウクライナという土地や文化背景を若干混ぜつつも、あくまでベースは青少年期の混沌、葛藤、高揚というようなところに重きが置かれている。シーンの多くをくだらない馬鹿騒ぎが占める上に特段大きいことが起きるわけでもないこの構成は正直飽きる人もいそうだ。
だが個人的にはこれはこれで良いと思っていて、
この年代の人生はこんなにも淡く、そして一瞬で終わってしまう、後になってみれば何をしていたかも覚えていないような些細な出来事だったというリアルさがある。特に主人公の心情が混じった現実と理想の間を行き来するようなシーンの数々は繊細な機微と不安定さが滲む。

また、インスタに絵文字一文字だけで投稿したり、歴史上の人物に顔フィルターかけて遊んだり、友達と3人でのお泊まりでベッドに寝転んだ瞬間全員スマホ開いたり、”Childfree”な生活を希求したり、まさに今生きる若者やGen Zのリアルを垣間見れるのも良い。

登場人物についてはキャスト一覧を見て分かるように、ティーンエイジャーの演者ほぼ全員が本名か、もしくはそれに近い名前で演じているところに彼らのそのままを活かしたい監督のこだわりを感じた。それだけに人物描写の掘り下げが甘いという指摘も見受けられ、言われてみればまあ少し甘いかなとも思わなくもない。

主人公が憧れるSashaはアナキンを演じた頃のHayden Christensenを彷彿とさせる、端正な顔立ちに社会の疲弊を全て見てきたかのような憂いと強さのある眼差しが特徴的で、クラスの一軍の先頭を歩いて出てくるような人物でありながら、終始ふざけている仲間を少し離れたところから見て笑っていたり、課外学習や授業の時には他と隔たって真剣に聞いているようなところが確かに高校生とは思えない落ち着きがいい具合にあってカリスマ性ががあるのも分かる。

対して主人公はベルリンに住んでアート専攻でもしてそうな前衛的な雰囲気だが、クラスでは一軍ではなく、パーティーにも行かないし教室の端からこっそりSashaを見つめているような存在。
(それだけに最後のダンスパーティシーンにて背景に映る視線で実はMashaを気になっている人物は結構いました!的な設定はやや無理があると思う。)

Mashaの家庭は裕福とまではいかないものの恵まれていて、一家はキエフを見渡せる高層の団地に住んでいるようで両親は経済的にも精神的にも安定しているし、おそらく共働きで家事も2人で分担している。子供が友達を連れて泊まりに来れば歓迎して自分を呼び捨てで呼ぶように言ったり、全員分朝食を用意するし、子供や友達の未来についても聞きはするものの自分の意見を押し付けたりはせず、不安をとりのぞきながらそっと寄り添う姿勢だ。

対して仲良しのSeniaや先述のSashaの家庭は、無職の父親がいつも家にいて自分の動向を監視するようであったり、片親で一人息子であるが故に執心する親の期待とプレッシャーを一身に背負って将来に立ち向かわなくてはならなかったり、それぞれ自らが”強く"いなくてはならない理由がある。

完全な大人ではないからこそ、そういった不可抗力とそれぞれのやり方でうまく折り合いをつけないといけないというところも普遍を描いているように見える。

ちなみにタイトルの”Stop -Zemlia”は直訳すると地面よ止まれというような意味で、登場人物達が遊ぶ、目隠し鬼的なゲーム内に出てくるセリフである。このセリフが発動すると、だるまさんがころんだのように、鬼は周囲の動きを止めさせ、近くに誰かいた場合には鬼役を交代させられるようだ。
Mashaにとって、止めたかったのは、そして知りたかったのは交代させられる誰かだけではなく、SNSで匿名で自分に連絡してきて寄り添ってくれる誰か、近くにいるのに遠い存在のSasha、将来も決まらないまま進んでいく今、それら全部だったのだと思う。しかしながら結局それらは自分がStopというまではただ過ぎ去っていくし、Stopと言ったところで何か変化が起きるかどうかも分からないものなのだ。

登場人物誰の願いも目標も最後まで特に明確に達成されないままエンディングを迎えるが、そこでは一過性の儚さと無鉄砲な強さを越えた、不思議と晴れ晴れとした彼らの気持ちを目の当たりにできた。


PS: Seniaがいつも着てるTシャツが独語で警察の意味なの、じわる
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