寝木裕和

恋文の寝木裕和のレビュー・感想・評価

恋文(1953年製作の映画)
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日本の映画史において、二人目になる女性映画監督・田中絹代の第一作目。

これ、観始めてしばらくは、1953年公開ということもあり、さすがに時代錯誤的な描写が多いなと思わないではなかった。

主人公・礼吉が、日本人女性から依頼された(多くの場合は洋妾と呼ばれた者からの)、会えなくなったアメリカ兵への恋文を代書するとき、彼女たちのことを「知性の低い人たちだよ」と曰う。

また別のときには、幼少期の頃から礼吉と慕い合った道子が、離れ離れになった数年の間にアメリカ兵と恋仲になり、子供をもうけたのだが、そのアメリカ兵の帰国後、彼とは連絡が取れなくなり、さらにその子供も亡くなってしまったことを知り、悔しさと哀しさゆえに酷い罵詈雑言を浴びせる。

けれどもそういう描き方をしているのは、人間の深層心理に潜む差別的な部分、他者を精査し蔑視したい心… を見せるためだということに徐々に気づいていく。
田中絹代はそれらを女性らしい繊細な見せ方で綴っていく。

そのことに気づくと、逆にこの監督の先見性に驚く。

「…汝らの中で罪なき者、まず石を投げよ…

日本人は一人残らず、あのくだらない戦争の責任がある。

一体、誰が、誰に石を投げられるというのだろう。」

ラストシーンで友人の山路直人が礼吉に台詞。

なお、この作品は丹羽文雄の同名小説が原作(まだ未読)。
作品中、山路が代書屋を営んでいるのは渋谷のすずらん横丁というかつて実際にあった通りで(現在のヤマダ電機のある文化村通りの辺りから、道玄坂に抜ける道。)、この小説〜および映画のヒットによって、『恋文通り』に改名されたのだとか。
寝木裕和

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