ひろぽん

揺れるときのひろぽんのレビュー・感想・評価

揺れるとき(2021年製作の映画)
3.6
ロレーヌ地方の低所得者層向け団地に暮らす10歳の少年・ジョニー。まだ幼さが残る年齢なのに、大人の話にしか興味を持たず、若い母親の恋愛模様を観察する毎日。新しくジョニーの担任になった若いアダムスキー先生に背中を押され、先生と一緒に新しい世界への扉を開こうと踏み出していく物語。


父親とは離婚し離れ離れになり、シングルマザーの母、年の離れた兄、幼い妹と4人で暮らすジョニー。

家では幼い妹の面倒をみて、酔っ払った母の介抱や体のマッサージをし、年の離れた兄は遊んでばかりで全く頼りにならない。家には見知らぬ母親の彼氏が出入りし、タバコ屋で働く母は教養もなく怒ってばかり。オマケにジョニーが真面目に勉強を始めると変人扱いをする有り様。

新任のアダムスキー先生と出会い勉強に目覚めていくジョニー。次第に先生との距離も近くなっていき、また先生も特別扱いをするくらいジョニーを可愛がっていく。

先生に惹かれていく感情は憧れなのか、恋なのか分からず葛藤していく姿、大胆に行動した結果の現実がとても切なかった。

アダムスキー先生も立場上ダメなものはダメとハッキリ伝え、突き放した行動は好感が持てる。

女の子に見えるくらい中性的な見た目の美少年であり、大人との会話に対応できる頭の良さと、成長しようとする好奇心旺盛さを兼ね備えた優秀なジョニー。人生を諦めたような雰囲気をしていたが、先生との交流を通して絶望的な現状から将来に対して希望を見出していく姿が良かった。

穏やかな性格で普段は文句も言わなかったのに、あまりにも過酷な環境で最後に“人生は暇つぶしなのかよ”と母や兄に感情を爆発させたシーンは正しい行動だったように感じる。

劇中に流れるDeep Purpleの『Child In Time』の曲がとても良かった。

10歳という子どもと大人の間で揺れ動く、難しい年頃の少年の感情を上手く表現している作品だと思う。派手な演出は一切なく10歳の少年を等身大でリアルに描いている。

ネグレクトやLGBTQ、貧困、ヤングケアラー問題などの社会問題が子ども視点で描かれている点がとても良かった。

親が見ていないところで子どもは色々なものを見聞きして感じ、様々なものを吸収して瞬く間に成長していく。大人の気付かぬうちに早いスピードで成長するのだなと驚かされた。

ジョニーのような子どもが将来劣悪な環境から脱出して、過去の苦しい経験をバネにして大きな事を成し遂げるんだろうなと思う。

こういった作品に触れることは凄く大切なことなんだと思う。
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