びこえもん

變臉(へんめん)/この櫂に手をそえてのびこえもんのレビュー・感想・評価

4.6
数年前からずっと観てみたいと思っていたのですがようやく機会を得て鑑賞。期待が高かっただけに意外と…みたいなパターンがないか心配ではありましたが、しっかり良作でした。なぜ円盤化してないのでしょう。海外版なら数千円でDVDが買えるようですが、中国語映画を英語字幕で観るのも大変だし、海外版DVDを再生するのも面倒が伴う…とかで尻込みしてたので、渋谷のTSUTAYAでデッキごとVHSをレンタルしました。

映像芸術かエンタメかで言えばどちらかと言えば後者寄りかと思います。それも、ちょっと御涙頂戴系寄りのエンタメ。ただ露骨に「人が死にました!さあ泣いてください!」という薄っぺらなやつではなくて、「こだわりを貫く職人気質の老大道芸人と人身売買された身ながらひたむきに逞しく生きる子供」という2人を通して、厳しい状況に晒されながらも相手を思いやる気持ちを忘れない、そういう温かみのある人情の物語があるところに、高評価の所以があるように感じます。そしてしれっと出てきたシーンが実は伏線だった…という場面が多く、脚本もかなり巧みでした。一昔前の中国という舞台設定もあって、ジェンダーに敏感な今時だったら結構問題視されそうだな…という部分も多いですが、まぁそこはそういう舞台設定でのお話ですので。

同年代の中国映画である陳凱歌監督の『さらば、わが愛/覇王別姫』とは、舞台となる街の質感や大衆芸能という題材からかなり近い雰囲気が漂っていますが、芸能を通じて清朝末期から共産党政権までの中華の歴史を詳細に追った時代物のクロニクルとしての側面も色濃い覇王別姫と比較して、こちらはより「ある老人と少女に起こった一連の出来事と、それに伴う心情」というミニマルな題材にフォーカスしたヒューマンドラマ作品であると言えるでしょう。

中華映画に関心があってVHSレンタルできる環境にある方には是非おすすめしたい。

あと猿が芸達者すぎてびっくりしました。表情も漫画かよってくらい上手くて、ある意味この映画で一番の名優です。『ペルシャ猫を誰も知らない』の牛小屋ライブシーンの牛と同じくらいインパクトがある。